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第12話

 1ピースのタルトを、ゆっくり時間をかけて食べた。  耀くんの入れてくれたコーヒーは冷めても変わらず美味しかった。でも。 「また、耀くん家のコーヒー飲みたいなぁ」 「気に入ったの? あれ」 「うん。これもすごく美味しいけど、また耀くん家で飲みたい」 「そっかぁ。コーヒーをね、碧に入れてあげるのは全然いいんだけどさ」  そう言いながら、耀くんが僕の方に身体を向けた。僕もそれに倣って耀くんの方を向いた。 「ちょっとね、俺の方に問題があるんだよね」  視線を伏せた耀くんが下唇を噛んだ。 「問題?」  問い返すと、言い辛そうに口を開いてはまた閉じた。  耀くんがこんなに言い淀むのは珍しい。 「…言わないでいようと、言わない方がいいと、ずっと思ってたんだけどさ」  ちらりと僕の方を見て、耀くんが話し始めた。目元が少し赤くてすごく綺麗だ。 「俺ね、碧のこと好きなんだよ」 「僕も耀くん好きだよ?」  口をついて出た僕の言葉を聞いた耀くんが、困ったように笑っている。 「…うん、ありがとう。でも違うんだ。碧の言う好きと、俺の言ってる好きは、たぶん種類が違う」 「あ…」  敬也がお姉ちゃんに向ける好き。お姉ちゃんが耀くんに向ける好き。  そういう、好き? 「…気持ち悪いならそう言って。俺もうここ来ないし。碧が俺を優しいと感じるのは、下心があるからだよ。陽菜にケーキ買ったのは、単に後で文句を言われるのが嫌だっただけだしね。今ね、誰もいないって知っててここに来ておいてなんだけど、うちにお前が来て、2人きりになった時、俺何するかちょっと自信ない」  僕から視線を外した耀くんが眉間に皺を寄せている。そんな表情も格好いいと思う。  でも分かんない。なんて応えたらいいんだろう。  僕はその『好き』がイマイチ分かっていない。だけど。 「…気持ち悪い、なんて思わないよ。だって僕、耀くん好きだもん。でも僕、みんなの言う『好き』がまだよく分かんないんだ。敬也にお姉ちゃんと喋りたいからどうにかして、って言われたり、耀くんを好きな女の子に連絡先渡してって言われたりするたびに、『好き』ってなんだろうって思ってる。僕はたぶんまだ全然子どもなんだよ。だから…」  僕は、これでいいのかなと思いながら、必死で喋っている。 「もう来ないなんて言わないでよ。今までとおんなじでいてよ。耀くんが困るなら、耀くん家に行きたいなんてもう言わないから」 「…俺が困るっていうか…、碧が困ることになるんだよ? 分かって…ないか」  耀くんはそう言って、ため息をついた。そして考え込むような顔をして、もう一度僕を見た。  うわ 格好いい…っ

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