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第14話

 やっぱり格好いい 「そう、嫌だったら殴ってでも逃げること。…俺は忠告したからな? こんなつもりじゃなかった、とか後で言うなよ?」  いつもの耀くんに近い、でもちょっと違う耀くんの表情。何か吹っ切れたみたいな感じ。  この人が、僕を好きだって言ってる。  改めてそう思って、心臓がとくとくと早鐘を打ち始めた。体温がじわじわと上がってくるのを感じる。  耀くんが笑った。  その手が、大きな手が僕の方に伸びてきて頬を撫でる。  思わずびくっとした。でも僕は逃げなかった。一瞬止まった手が、再び頬を伝う。 「顔、赤くなってる。何考えてるの?」  堪らなく魅力的な微笑みで覗き込んでこられて応えに詰まる。 「…耀くんの、こと…」  ようやくそう言って、上目に耀くんを見て唇を噛んだ。 「碧、お前ね、そういうこと言うと俺を増長させるよ?」  頬を撫でた手が頭を撫でる。その感触にうっとりする。 「…俺に触られんの、やじゃないの?」  少し眉を歪めて耀くんが言った。 「耀くんに触られて、やだったことなんかないよ」  僕がそう言うと、頭を撫でていた大きな手が動きを止めた。  そしてじっと僕を見る。見て、ゆっくり僕から手を離した。 「急がなくてもいいけど、返事はしてほしい。いい? 碧」 「う、うん…」  返事、返事っていうのは… 「解ってると思うけど、俺と恋人として付き合えるか、っていう返事ね」 「あ…、う、うん…」  恋人… 耀くんの? 僕が? 「よ、耀くんは、女の子より男の人の方が好き、なの?」  不躾なことを訊いているのはさすがに解ってるけど、訊きたかった。  耀くんは僕をちらりと見てから、少し考えてそして口を開いた。 「分からない。碧しか好きになったことがないから」  どん、と胸が鳴った。  ずるい。そんな顔でそんなセリフ。  自分の中の好きという感情が恋なのかどうかも分からないのに、あの胸の中に飛び込みたくなる。 「また…困らせたね。でも困ってる顔も可愛い」  微笑みながら流し見て、そんなことを言う。  耀くん、ちょっと意地悪だ。  こんな耀くんは知らない。  でも、意地悪だけど、この耀くんもすごく格好いいと思う。  僕は結局のところ、耀くんに丸め込まれているんだろうか。  この心は恋なのか、それとも耀くんの罠にはまってしまっただけなのか。  分かんないよ。  だって僕は元々耀くんのことは好きなんだ。  好きの、種類。  友情なのか、恋なのか。  誰か教えてくれたらいいのに。

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