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第15話

 衝撃の告白から1日。  まだ気持ちがふわふわしてる。  今日は僕の誕生日パーティーで、朝から姉たちはケーキを焼いたり、リビングをパーティー会場に飾ったりしてる、んだと思う。僕は「出来上がるまで部屋から出ちゃだめ」と言われて、2階の自室にこもっている。  だからまだ誰にも会ってない。「いらっしゃい」くらいしてもいい気がしたけど、姉の言いつけは絶対だ。  みんなが僕のために集まって準備とかしてくれて嬉しいけど、待ってる間の、下から楽しそうな声が聞こえてくるこの状況はちょっと淋しい。それと。  トイレ行きたくなってきちゃった。  トイレはリビングを通らないと行けない。とりあえず姉にメッセージを送った。  ほどなくして階段を昇ってくる足音がして、ドアがノックされた。 「碧、開けていい?」  耀くんだ。 「あ、うん。い、いいよっ」  妙にどきどきする。 「陽菜に、碧がトイレ行きたいって言ってるから行ってやってって言われて」 「あ、うん、ありがと。ごめんね」  今日初めて見る耀くんは、相変わらず格好よくてそわそわする。 「なに謝ってんの。連れてってやるから目つぶって。準備の途中で見たら女の子たちに殺されるよ」  笑いながら物騒なことを言う耀くんが、僕に手を伸ばす。  大きな手。  その手を、握った。  あったかいなぁ  ついぎゅっと力を込めると、耀くんがフッと笑ってその手を引いて僕を引き寄せた。 「そういう可愛いことするとつけ上がるよ?」  例えば、つけ上がったら耀くんは僕に何をするんだろう。  そう思いながら見上げた僕を、耀くんはじっと見下ろして、 「じゃ、行こっか。階段気を付けて。まあ自分家だから大丈夫だろうけど。つまずいても絶対支えてやるから安心してな」  と言って微笑んだ。  僕はうん、と頷いて目を閉じた。  目を閉じると、視覚以外が鋭くなる。  繋いだ手の温かさや、その大きさ。耀くんの匂い。息遣い。  階段を一段降りるたび、大きくなるみんなの声、と何だ? ゴムの匂いかな? てことは風船? 「陽菜、お皿取って。切ったキウイ入れるの」 「あ、ちかちゃんハサミ取って」 「敬也、もちょっと上」 「あー、碧だ。絶対見ちゃだめだよー。まだ出来てないから」 「分かってるよー、わっ」  閉じた瞼が、暗く、あったかくなった。 「こうすれば絶対見えない」 「耀ちゃんナイス」  耀くんの大きな手が、僕の顔に当てられている。 「それ、耀ちゃんの手が大きいの? 碧の顔がちっちゃいの?」 「両方じゃないすか?」 「だねー」  みんなの笑い声。見えないけど楽しそうだ。でもだけど。  そんなことより顔が熱い。  耀くんの手があったかいから、だけじゃなくて、顔に熱が集まってくる。  耀くんに誘導されながらリビングを抜けると、顔を覆っていた手が外された。瞼に光を感じる。 「はい、到着。目開けていいよ」    目を閉じたまま、耳元で聞いた耀くんの声は、低くて甘かった。 「俺、あっち見てくるから終わったら呼んで」  リビングの方を指差しながらそう言って、耀くんは歩いて行った。  トイレから出て洗面台の鏡で見た自分の顔は、まだ少し赤かった。  でもきっと、みんなには見られてない。耀くんの大きな手が僕の顔を隠していたから。

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