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第16話
「耀くーん」
ドアを開けて声をかけると、すぐに耀くんが来てくれた。
「準備、あと30分くらいだって。とりあえず部屋に戻ろうか」
そう言われて、出された耀くんの手に手を重ねた。大きな手が包み込むように僕の手を握った。
「あの、耀くん。リビングまで行ったら、またさっきみたいにして?」
「ん? ああ、これ?」
耀くんが僕の顔に手を当てる。
「うん、そう」
顔を、隠してほしい。
今また頬が熱くなった。
「いいよ。じゃ行こうか」
「うん」
目を閉じて、手を引かれて歩く。リビングに着いた気配。
顔を覆う、耀くんの手の感触と温度。
ポンという破裂音がした。やっぱりバルーンアート的なものなのかな。
「お、今回もがっちりガードされてるー。もちょっとだからな、碧」
「あっやだ、クリーム垂れた」
「光ちゃんたち遅いね。誰か連絡きてる?」
「華ちゃんが今お店出たってー」
ケーキ、光くんと華ちゃんが取りに行ってくれたんだ。あの2人仲良いんだよね。
付き合ってるのかな、実は。
「碧、階段昇るよ」
耳元で声がしてハッとした。顔を覆っていた手が外されていく。
階段には手すりがある。それを掴んで昇れば目をつぶってたってちゃんと昇れる。自分家なんだから。
でも耀くんが手を離さないから、そのまま昇った。
手を繋いでいたいのは、恋なんだろうか。
女の子は友達同士でよく手を繋いだり、腕を組んだりして歩いてる。
男だって友達同士で肩を組んだりする。
「碧、もう目を開けていいよ」
僕にそう言った耀くんは、まだ僕の手を離さない。
そのままドアを開けて、僕の部屋に入った。
「ねぇ碧、お願いがあるんだけど」
手を繋いだまま耀くんが言う。僕はしょっちゅう耀くんにお願いをしてるけど、耀くんにされるのは珍しい。
「なに? 耀くん」
「グループのじゃなくて、俺と2人だけでメッセージの交換ができるようにしてほしい。駄目
?」
メッセージの交換と通話ができるアプリ。グループでも個人でもやり取りができる。僕たちはいつものメンバーでグループを作っている。
僕を見下ろしながら、そんな風に少し不安そうな表情で言うのはずるい。
「…ダメなんて、言うわけないじゃん」
なぜか、いいよ、と素直に言えなかった。
少し不貞腐れた言い方になって唇が歪んでしまう。また頬が熱くなる。
「ありがと、碧。にしても可愛いねお前、その顔」
どくんと胸が鳴った。
さらっとそんなこと言わないでほしい。
まあ、元々耀くんはこういう人だけど。
ちらっと上目に耀くんを見た。
うわ
視線が合った。一瞬だけ。僕が耐えられなくて逸らしたから。
女の子ならもう完全に落ちている。
「あ、えっと、スマホどこ置いたっけ?」
わざとらしくそう言って、机に目をやった。
僕はまだ落ちていないのか、それともとっくに落ちているのか。
それすらもよく分からない。
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