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第17話

 ようやく手を離して、2人で向き合ってスマホを操作して、試しにメッセージを送り合った。 「他に誰か、このアプリで個人的にメッセージ送ってる人いるの? 耀くん」  なんとなく訊いてみた。 「家族以外はいないよ。ここに来るメンツはみんなグループのだけだし、他の友達もグループメッセージだし、碧が持ってきた連絡先は、申し訳ないけど全部捨ててるし」  淡々と言う、綺麗な面差し。 「そっかぁ。いっぱいになっちゃうもんね」  人気者すぎて。 「違うよ。俺は碧が好きだから、他の個人的な連絡先なんかいらないんだよ」  不意打ちで、どん、と喰らってしまった。  あっという間に鼓動が速くなる。  こめかみがドクドクいってる。 「あ、下で陽菜が呼んでる。俺降りるね、碧」  耀くんがそう言って部屋を出ていく。  僕には姉の声なんか聞こえなかった。自分の心臓の音がうるさくて。  耀くんはいつから僕を好きでいてくれたんだろう。  深呼吸を繰り返して、どうにか心臓を落ち着かせようとする。  もうそろそろパーティーが始まってしまう。もう耀くんの手で顔を隠してもらうわけにもいかない。  手で顔を扇いで温度を下げようとするけれど、まだ顔はちりちりしてる。  やっぱり僕は耀くんを好きなのかもしれない。友達じゃなくて。  告白されてから、たった1日。  たった1日で、僕の中身が変わっていってしまっている気がする。  これは、流されているのか。  それとも、僕は僕の意志で耀くんを恋愛対象として好きなのか。  僕への気持ちを隠さなくなった耀くんの言葉や行動が、僕をぐらぐらと揺らす。  同性だということさえも、些細なことに思えるほどに耀くんは魅力的だ。  甘い甘い蜂蜜の沼の中に、ずぶずぶと沈み込んでいくような気持ちになる。  蜂蜜に溺れたらどうなるんだろう。苦しいのかな。苦しいよね。  呼吸のために開けた口に、甘い蜜が流れ込む。  甘くて甘くて息もできない。  ピンポーンと呼び鈴が鳴ってびくりとした。  光くんと華ちゃんが帰ってきたんだ。  ほんと、早く顔冷まさないと。  女の子ならメイクだって言ってごまかせるのに。  耀くんはめちゃくちゃ女の子にモテるのに、なんで僕なんだろう。  お姉ちゃんも、ちかちゃんも、耀くんのこと好きなのに。  そう考えると胸の奥がぎゅんとなった。  みんなが好きな耀くんを、僕は独り占めできるんだ。  それは…いいな。  そんな風に思ってしまった。    どくん、と心臓が跳ねた。うっかり体温が上がる。  ダメだ。下に降りられなくなっちゃう。  忙しなく手をパタパタさせて顔を扇ぐ。  僕を呼ぶお姉ちゃんの声が階下から聞こえた。 「はーい」と返事をしながら、スマホのカメラで自分の顔を確認する。  ギリ平気、だと思う。  あんまり遅くなっても怪しまれる。  僕は意を決して部屋を出た。  

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