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第18話

「では改めて、ハッピーバースディ碧!」  パーンとクラッカーが鳴って、ふわりと火薬の匂いが漂う。  予想通り、色とりどりの風船が壁を飾っている。  リビングのローテーブルにはホールケーキが2つ。お店のチョコレートケーキと、手作りのフルーツケーキ。それから、唐揚げやポテトなんかのオードブルと、お菓子の盛り合わせ。  みんなが歌うハッピーバースデーを聞いて、僕は両方のケーキの蝋燭を吹き消した。    僕たちの誕生日パーティーは、プレゼント交換はしない。その代わり部屋を飾ったり、食べるものをみんなで用意する。集まる人数が多くて、誕生日の子の家が全部負担すると大変だからだ。でも人数が多いから、お小遣いを出し合えば割と立派にパーティーができる。    このシステムを考えたのは、耀くんとお姉ちゃんだ。男子は女の子にプレゼントを買いに行くのがちょっと恥ずかしい、というのもあったらしい。僕は姉の買い物に付き合うことが多かったから、女の子の多い店も平気だけど。 「碧は見た目が浮いてないから」と言われたのは複雑な気分だったけど、納得もしてた。僕は男らしくない。  今日も、なんか金色の可愛い王冠を被せられてる。お姉ちゃんが「似合う似合う」と笑いながら写真を撮っていた。  部屋の様子やケーキなんかをひとしきり写真に収めて、女の子たちが満足したところで食べ始めた。その食べてる様子も写真に撮る。  鮮やかに加工された思い出が、画像フォルダにいっぱいになっていく。 「やっぱケーキあそこにしてよかったね、美味しい」  さっちゃんがフォークを咥えたまま嬉しそうに言った。 「みんなが作ってくれた方もすごく美味しいよ」  キウイとオレンジと、缶詰の黄桃とさくらんぼがのってる。 「そりゃ年に10回以上作ってるもんねー、あたしたち」  ねー、とみんなで笑い合ってる。 「オレここ来るようになるまでケーキなんか作ったことなかったっすよ」 「そっかぁ、敬也ん家、妹さんいるけどやりたがらない?」 「あんま興味ないみたいっす。母親もお菓子作ったりしたことないし」 「私たちだってここでしか作んないよー」  華ちゃんや萌ちゃんが笑いながら言う。  みんな、親は共働きで忙しい。だから僕たちは子どもだけで出来ることに色々チャレンジしながら、豊富にある時間を消費していた。 「ねぇねぇ、スイカ割りいつする?」  えりちゃんがワクワクした声で言う。えりちゃんはスイカが好きなのだ。 「もちょっとしたら庭が影になるから、それからにしようよ」  部屋の隅に、水を張ったたらいに入れられたスイカがぷかぷかしている。たぶんそんなに冷えないけど、丸ごとは冷蔵庫に入らないから仕方ない。 「今年も立派だねー。依ちゃん、おばあちゃんたち元気?」 「元気みたいだよ。てかコレ送ってくるってことは元気ってことっしょ」 「持ってくんの大変だっただろ、依人(よりと)」  耀くんが言う。 「あはは。まあ、筋トレ? まだ家に一個転がってるよ」  依くんのお母さんの実家はスイカ農家だ。だから毎年僕たちは、スイカ割りという贅沢な遊びが出来る。 「昔は3人ぐらいで運んだよな」 「そうそう、重いーって言いながら」 「みんなで依くん家行ってね、うちに持ってきて割るんだよね」  懐かしいなぁ。 「だっておれん家、庭ねぇもん」  僕の思い出には、どこまで遡っても耀くんがいる。僕に自転車の乗り方を教えてくれたのも耀くんだし、泳ぎ方を教えてくれたのも耀くんだ。  いなくなるなんて考えられない。  そう思いながら、フルーツケーキの最後のひと掛けを口に入れた。  缶詰の桃の、シロップに浸かったとろりとした舌触り。  耀くんの買ってきてくれたタルトの桃は生の桃だったから、歯応えがシャキッとして甘い香りが鼻に抜けた。  あれ、すごく美味しかったな。 「あんた今、昨日の耀ちゃんが買ってきたタルトのこと考えてたでしょ」 「え」  ずいっと寄ってきた姉に耳元でそう言われてビクッとした。 「あれには敵わないわよ。てか普通あんなの友達に買ってこないし。ほんと耀ちゃんてば…」 「俺がなに?」

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