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第19話

 耀くんがスッと寄って来て、僕の隣に座った。姉が僕越しに耀くんを見て、ふんっと鼻で息をした。 「耀ちゃんは、碧に甘すぎだって言ってんの」  ぷうっと頬を膨らませて姉が言う。ちらっと見えた敬也が微妙な顔をしていた。 「可愛い碧の誕生日だよ? ケーキぐらい買ってくるよ。ていうか陽菜にも買ってきただろう?」  また、どくんと鼓動が跳ねた。耀くんが大きな手で僕の頭を撫でる。 「また言ってる、耀ちゃん。まあね、碧は可愛いですよー。あたしの弟だからね」    そうだ、以前から耀くんは僕のことをよく可愛いって言ってた。  それを僕はちょっと恥ずかしいなと思いながら聞いてた。  でも今は、ちょっとどころじゃない。  耀くんの気持ちを知ってから聞く『可愛い』は今までと比べものにならないパワーで僕の心に掴みかかってくる。  逃げられないのか、逃げる気がないのか、自分でも分からない。 「碧、耀くんにケーキもらったの? いいなぁ。ちかの誕生日にもケーキちょうだい、耀くん」  テーブルの向かい側に来たちかちゃんが、耀くんを見ながら少し舌足らずな甘えた声で言う。  ほんの少し、イラッとした。 「買えるタイミングだったらね」  耀くんが、どうとでも言い訳のできる返事をした。  ちかちゃんはそれでも嬉しそうにしてた。  お姉ちゃんの目の温度が少し下がって見えた。  人を好きになるって、キレイなことばっかりじゃないんだ。  僕の心の中にも、黒いものがモワッと広がるのを感じるようになってる。  それはたぶん、独占欲と嫉妬心。  耀くんは僕のものだと思い始めてしまってる。 「ねー、庭、影になったよ。スイカ割りしよー」  えりちゃんが外を見ながらそう言って、依くんが「おー」と言いながらスイカを取りに行った。掃き出し窓の所にスイカとレジャーシートや棒なんかを並べておいて、みんなで玄関から庭に出た。 「あっつーい」 「溶ける!! 身体がっ!!」 「年々暑くなるよねー」 「でもスイカ割りはやりたいよねー」 「なんかね」  あははとみんなで笑いながらレジャーシートを敷いて、タオルを置いてスイカをのせた。 「あ、今年もやるのね」  ちょうど買い物から帰ってきたお隣のおばさんが声をかけていった。 「やりまーす」  啓吾が片手を高々と上げて返事をした。おばさんもあははと笑った。  すごいいつも通り。去年も、僕たちは受験生だったけど、勉強の息抜きも兼ねて同じようにパーティーをして、スイカを割った。  でも、こんなにいつも通りなのに、僕の気持ちだけが去年までと全然違う。 「くじはー?」 「あ、ここ、ここ。みんな引いてー」  そう言ってえりちゃんがお菓子の入ってた箱を出した。4つ折りになった紙が中に入ってる。順番に引いていって、みんなで一斉にくじを開いた。 「あ、オレ1番」  敬也が言った。僕は3番だった。さっちゃんが持っていた目隠しを姉に渡した。 「じゃ、敬也こっち来て」  姉に手招きされて、敬也がちょっと緊張した顔でスタート位置についた。スイカ割り用に、何年か前にさっちゃんが作ってくれた目隠しを、姉が敬也の目に当てる。 「敬也、どう? キツくない?」  敬也は気付いてないけど、ここにいる何人かは敬也がお姉ちゃんを好きなのに気付いてる。  だからさっき敬也が1番だって分かった時、さっちゃんはお姉ちゃんに目隠しを渡したんだ。  そういうことが、じわじわと分かってくる。

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