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第20話
敬也は姉に「大丈夫っす」と応え、姉は「オッケー」と返事をした。
「よし、敬也手ぇ出せ」
依くんがそう言いながら、敬也に棒を渡した。
「何回まわるの?」
「10回じゃない?」
「10回多いよ。5回でよくない?」
「じゃ、間取って7回で。よし回れ、敬也」
光くんが敬也の肩を持って回転させた。みんなで1回、2回と数える。
「7回! 敬也、右! 右!」
「違う違う、今は真っ直ぐ!」
「あと3歩! そこ!」
そこ!と言った姉を信じて、敬也は棒を振り下ろした。カツッとレジャーシートで跳ね返って「いってーっ」と上を向く。
「あー、あと5センチ左だったねー」
えりちゃんが「ざんねーん」と笑いながら言った。敬也が目隠しを外しながら「うわー、惜しかったー」と嘆いた。
「2番は?」
「あ、あたしあたしー」
と姉が手を挙げた。それを見た敬也がやや頬を紅潮させて目隠しを差し出した。姉は「はーい」と受け取った。そして、
「耀ちゃん、目隠し結んで」
と耀くんを指名した。
胸の奥がちりっとする。
耀くんは「いいよ」と言って姉に目隠しをする。ちかちゃんが羨ましそうに見てる。
僕は今、どんな顔をしてるんだろう。
耀くんが目隠しを結んで、スッと姉から離れた。ちかちゃんがそれを目で追った。
「陽菜、回すよー、1回!」
華ちゃんがさっきと同じように姉の肩を持って回転させる。
7回転して、姉はスイカと全然違う方に進もうとして、みんなに「違う違う」と言われてどうにか半回転して、やっぱりレジャーシートを叩いた。
「もー、今年も当たんなかったー」
「陽菜当たったことないよね」
「ないのー。で、3番誰?」
姉は目隠しを取って振りながら言った。
「あ、僕」
はーい、と手を挙げながら僕が姉から目隠しを受け取ろうとすると、耀くんの方が先に手を出した。姉は「え?」という顔をして、耀くんは「ん?」という顔をしてた。
姉が耀くんに目隠しを渡しながら、僕の方をちらりと見た。
さっきちかちゃんを見てた目に似てる。
「おいで、碧」
耀くんに呼ばれてスタート位置に立った。
目隠しを持った大きな手が目の前に見えて、目を閉じた。
絶妙な力加減で目隠しが結ばれて「どう?」って訊かれた。
僕はこくりと頷いた。
「よし、じゃ回すよー」
と言ったのは耀くん。
お姉ちゃんの時は、結んだらすぐに離れたのに。
こんなあからさまに態度変えてて、大丈夫なのかな耀くん。
そう思うのに、ドキドキする胸の疼きは甘い。
みんながカウントする声を聞きながらくるくる回る。
「7回!」
耀くんはほんの少し力を入れて、僕の方向を修正した。
「真っ直ぐ行け、碧」
耳元でそう言われて、ゆっくり歩き始める。
「いいよー、碧。あと5歩、4歩かなー?」
姉の声。
「気持ち右向いてあと3歩」
耀くんの声。
気持ち右。1歩、2歩、3歩。
「そこだ、碧」
その耀くんの声を信じて、僕は棒を振り下ろした。
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