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第22話

「碧の高校、夏休みの宿題結構出てるんだね」  誕生日パーティーから数日。僕はまだ耀くんに返事をしていない。  いざとなると何て言えばいいのか分からないのと、案外2人っきりになるのが難しい。  2人でメッセージの交換ができるようにはしたけど、こういう事はやっぱり顔を見て直接言った方がいいと思う。  なので今日もごく普通に、うちのリビングでみんなと過ごしてる。  僕はそろそろ真面目に宿題に手を付けようと思って、とりあえず全部並べてどれから片付けるか考えていた。 「耀くんとこはあんまり出ないんだっけ?」 「そう。宿題は出ない。その代わり休み明けのテストがエグい」 「耀ちゃんは特進だから余計よねー。あたしのクラスのテスト範囲は1学期の分だけだし」  お姉ちゃんがスマホから目を上げて言った。 「そんなに違うの?」  隣に座ってる耀くんに視線を向けるけど、目が合うと恥ずかしい。  だからつい、逸らしてしまう。 「うちのクラスはね、テスト範囲が示されなかった。ここまで習ってきた中から出ますよって言われて、もうどこから始めりゃいいんだか」  そう言ってため息をついた耀くんの横顔を盗み見る。  目が合うと恥ずかしいけど、見たい。  高い鼻と長いまつ毛。今日も変わらず格好いい。 「ということで協力して、碧。どこ勉強していいか分からないから、とりあえずお前の宿題を一緒にやる」 「なにそれ耀ちゃん」  姉が唖然として耀くんを見てる。僕もびっくりして耀くんを見た。 「だってそうだろ? 碧が今やってるところは漏れなく俺のテスト範囲だ」 「まあ、それはそうかもしれないけど。でも碧の高校教科書違うし」 「足りない分は家でやるよ。碧、何からにする?」  ローテーブルに肩肘を突いて、僕を見ながら耀くんが問うてくる。  向かい側の姉からの視線を痛いほど感じた。  お姉ちゃんは何か気付いてるのかもしれない。 「えっと…、じゃあ英語」 「OK」    僕は英語以外の教科書とかをテーブルから下ろした。  耀くんが少し、僕の方に近付く。  ドキドキ、してきてしまう。  あぐらをかいた耀くんの脚が、僕の脚に触れている。  前はこんなこと、気にもならなかった。  エアコンの効いた室内で、手のひらにじんわりと汗をかいてくる。  さして難しくないはずの問題も、頭が上手く働いてくれない。  耀くんはそんな僕の様子を見ながら、ヒントを出してくれる。  声が優しくて心地いい。  向かい側に座っていたお姉ちゃんが立ち上がって移動した。ちらりと目をやると、反対側の隅にあるソファに座ってるさっちゃんと話し始めた。  姉がいなくなったテーブルの向かい側にちかちゃんが来た。今日もちかちゃんはオシャレに気合が入ってる。ちかちゃんはテーブルに両肘を突いて、こっちに身を乗り出すようにした。 「ねぇ耀くん。ちかの宿題も見て?」  人工の、羽ばたきそうなほど長いまつ毛に縁取られた大きな瞳。ついこの前まで、いつも可愛くしててすごいなぁって思ってた。  でも今は、その上目遣いが気に障る。 「んー、そうだな。俺は碧を見てるから、桜か陽菜に見てもらって」  耀くんは軽くちかちゃんに視線を送ってすぐに逸らした。 「えー? 耀くん冷たい。てゆーか碧ばっかりずるくない?」  どくん、と心臓が重たく鳴った。シャーペンをぎゅうっと握り込む。 「…俺が、誰の宿題を見るかは俺の自由、だよね?」  耀くんの声、静かだけど少し苛立ってるような気がする。  視線を上げてちかちゃんの方を見たら目が合ってしまった。  あ、ムッとしてる  僕は慌てて目を逸らした。 「いいもーん。陽菜ちゃん、さっちゃん宿題見てー」  ちかちゃんの細い脚がソファに向かうのが視界に入った。  僕はちらりと耀くんの方を見た。  うわ…  

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