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第23話

 真顔で見られたら、どんな顔をすればいいか分からないのに目が離せない。  耀くんがふわっと笑った。 「じゃ、続きやろうか、碧」 「う、うん」  とくとく、とくとくと鳴る心臓を持て余す。下唇を噛んで、問題文を必死で目で追う。 「碧、そんなに噛んだら唇切れるぞ」  囁くようにそう言った耀くんが、僕の口元に手を伸ばす。親指で唇をなぞられて、立てた歯をどうにか唇から離した。  簡単なスペルが思い出せない。止まってしまった僕のシャーペンの先が震えている。 ーー俺とじゃ勉強にならない? やめる?  耀くんが問題集の端の方にそう書いた。  僕は首を横に振った。 ーーじゃ、ゆっくりやろうな  そう書いた耀くんは、僕が読んだのを確認すると両方の文字を消した。  耀くんの字、残したかったな  でもあんな文、残しておけないけど。  提出、しなきゃいけない問題集だし。  大きく息を吸って、ゆっくり吐いた。もう一度最初から問題集を読んでいく。  一個、分かんない単語がある、ということが分かるくらいにはどうにか落ち着いた。  辞書を引く僕の手を、耀くんが見ている。  顔、大丈夫かな。さっきから頬がちりちりしてる。  調べた単語の意味を問題集に書き込む。  子どもっぽい字。さっきの耀くんの字は、大人っぽくてキレイだった。  耀くんは昔、書道を習ってた。 「碧、そこ、aじゃなくてthe」 「あ、そっか」  いつも通りに教えてもらってるうちに、だいぶ緊張が解けてきた。  ずっと触れてる脚の一点が暖かい。  花火大会の帰りみたいに、もたれかかったりとかしたいな。  でもそんなタイミングないけど。 「碧、スペル間違ってる」  ヨコシマな考えが頭を巡ってるからミスが多い。  でも耀くんが怒らないことを、僕は知ってる。  甘やかされてるって、こういうことか。 「疲れた?」  耀くんが横から僕を覗き込む。 「ちょっと」  その顔を、どうにか見返す。視線が合うと鼓動が速くなる。  形の良い瞳が柔らかく細められた。こんな綺麗な笑顔、他で見たことない。 「じゃ、休憩しようか」  そう言った耀くんが僕の頭をさらりと撫でた。  やっぱり好きだなぁ、耀くんの手  ずっと撫でててほしい 「…あのさ」  僕にしか聞こえないボリュームで、耀くんがボソッと言った。 「そんなうっとりされると、俺の理性がやばいんだけど」  思わず耀くんを凝視した。耀くんは困ったように笑ってる。 「ほら、その顔とかめちゃくちゃ可愛いし」  吐息のような声で告げられる言葉に、どんどん体温が上がってしまう。  やばいのは僕の方だよ

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