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第25話
『夕方を過ぎたら、女の子を1人で帰さない。必ず男子が送って行くこと』
それは親たちも含めてみんなで決めたルールだ。嫌な犯罪は後を絶たない。だからこのルールは守っていくべきだ。
そう思いながら、それでも僕はイライラしながらみんなの後ろ姿を見送った。
さっちゃんと依くんと啓吾が同じ方向で、耀くんとちかちゃんが同じ方向。うちから二手に分かれて帰っていく。
「バイバーイ」と手を振ったあと、ちかちゃんが嬉しそうに耀くんに近寄って話しかける。耀くんもそれに応えてる。
ただ、友達同士で帰ってるその光景に僕は腹を立ててしまっていた。
ガシャンと音がしてびくっとした。姉が郵便受けを開けていた。
「あ、明日断水だって。そういえばなんか外がざわざわしてるなーと思ってたけど」
A4の黄色い用紙に大きく『断水のお知らせ』と書いてある。
なんか突発的な工事らしい。明日の9時から17時まで。結構長い。
「どーしよっか、碧。家にはいられないから出かけなきゃね」
断水の範囲はうちの周り一区画。ということは。
耀くん家のマンションは、断水じゃないんだ。
「うん、そうだねお姉ちゃん」
姉の声が遠くに聞こえる。どくどくと心臓が主張を始める。
走り出したい気持ちを抑えて、努めて普段通りに家に入って自室へ向かう。
この前耀くんに手を引かれて昇った階段。急ぎたいけど駆け上がるのは不自然だ。
ゆっくり動いているのに息が上がる。
どうにか部屋に着いて、急いでスマホを取り出した。
姉がみんなに明日の予定についてのグループメッセージを送る前に、耀くんに伝えたいことがある。
どきどきして、慣れた操作を間違える。
でも送り先だけは、絶対間違えちゃいけないからしっかり確認した。
ーーー耀くん、明日、耀くん家行っていい?
恐る恐る、送信を押した。
それと同時に着信があってびくりとした。
お姉ちゃんだ。
ーー明日、うちの辺り1日中断水なのー。みんなでどっか行かない?
お姉ちゃんの『みんな』には、当然僕も入ってるんだと思う。
ピロリン、ピロリンと着信音が鳴る。
1番は敬也だ。
ーー行きまーす!
敬也は妹を見なきゃいけないから、夏休みはあんまり来ないけど、明日は来れるんだな。
えりちゃんからは、
ーーいいよー。どこ行く?
光くんと華ちゃんからは、
ーーあ、ごめーん。明日は予定があって。
と、それぞれから連絡があった。光くんと華ちゃんはやっぱり付き合ってる。
少しして萌ちゃんから、
ーーどこ行くかで決めていい?
とメッセージがきて、姉が、
ーーちなみにどこだったら行きたい? アウトドア? インドア?
と返事をしていた。
さっきうちから帰って行ったみんなは、まだ気付いていないのか返信がない。
萌ちゃんは、
ーー日焼けしたくないから室内がいいな。
と送ってきた。そこにピロンピロンと立て続けにメッセージが届く。
ーー私も室内に1票。
と、さっちゃん。
ーーたまには外行こうぜ。
と依くん。
ーーヒマだからどこでもいいっす。
は啓吾。この3人はまだ一緒にいるのかな。
耀くんとちかちゃんから返信がこない。
ちかちゃん家、もう着いてるはずなのに。そんなに遠くないし。
どうしたんだろう。
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