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第27話

ーー碧、何て言って遊びに行かないことにしたの? ーーー図書館行くって言った。 ーーなら一応図書館は行った方がいいのか? 本借りる? ーーー読書感想文用の本、借りないといけない。 ーーじゃ、一緒に行く?  スマホに並んだその文字を凝視した。  すごい魅力的だ。でも。  耀くんは目立つ。  一緒に行ったらすぐに姉たちの耳に入ってしまうだろう。  でも一緒に行きたい。  考え込んでいると、再びスマホが鳴った。 ーー図書館で偶然会ったことにしようか。俺は何の用か言ってないし。時間少しずらして向こうで会おう。  メッセージを読みながら、とくん、とくんと胸が鳴るのを感じている。 ーーーうん。  それなら、長く一緒にいられる。  耀くんとのメッセージのやり取りをしている間も、みんなのグループのメッセージのやり取りがピロピロと届く。 どうやらみんなでショッピングモールに行くことにしたらしい。涼しいし、日焼けしないし、何より女の子はお店を見るのが好きだ。男子は「ゲーセンもあるし、いっか」と折れていた。そこでバラバラにならないところが仲が良い、というか、敬也のことを考えてくれたのかなと思った。  ショッピングモールは電車で上り2駅、図書館は下り1駅。 ーー碧、電車で行く? それとも自転車? ーーーどうしよう。暑いから電車?  あ、でも駅はうっかり誰かと鉢合わせするかもしれない。 ーーーやっぱり自転車にする。 ーーOK。じゃ俺も自転車で行く。  図書館は9時に開く。断水は9時からだから、9時ちょっと前には家を出る、と耀くんに伝えた。耀くんからは少し後に着くようにすると返信があった。  翌日のために図書館のカードとタオルをトートバッグに入れた。図書館のカードは小さい頃に作って、そのまま更新し続けている。  コンコン、とノックの音がした。 「碧、入るわよ」 「いいけど」  と言い終わる前にドアが開いて、スマホを手に持ったまま、姉が入ってきた。明日の予定関係のメッセージのやり取りはまだ続いている。 「敬也が来るって言うからあんたも行くと思ってたんだけどね、あたしは」 「もう僕がいなくても大丈夫だよ、敬也は」 「まあね、啓吾も来るし」  そう言って姉がちらっと僕を見た。ビリッと緊張感が走る。 「…耀ちゃん、明日何かあるなんて言ってなかったのにね、今日」 「…忘れてただけ、じゃないの?」  お姉ちゃんと2人は怖い  悪いことをしてるわけじゃないのに動悸がするのは、やっぱり後ろ暗いと思っているからなのかな。  ていうか、相手が耀くんだからか。    たぶん、お姉ちゃんの初恋の人は耀くんだと思う。  その耀くんから、僕は好きだと言われている。 「忘れてただけ、ねぇ。あの耀ちゃんが? 記憶力すごくいいのに」  納得いかなそうな顔をして、姉がため息をついた。 「ま、明日、気を付けて行くのよ。駅までは一緒?」 「ううん。自転車で行く」 「あ、そう。なら余計気を付けてね、って、あ、お母さん帰ってきたわね」  玄関ドアの開閉する音と「ただいまー」と言う声。 「あ、洗濯物入れてないよね」 「そうだ! 忘れてた! 断水で」  そう言い合いながらバタバタと2人でベランダへ急いだ。途中階段から下に向かって「おかえりー」と母に言った。  3人で夕食の支度をしながら断水の話をして、僕と姉が別々に過ごすことについて母が「それも成長よねぇ。仲良しなのは全然いいんだけどね」と言った。  仲良しなのか、僕とお姉ちゃんは。  まぁ別に仲悪くはないけど。  でも普通は、こんなに姉弟で一緒には過ごさないもんだ、と誰だったかに言われた気がする。敬也には、兄弟だってあんまり一緒に出かけたりとかはしないって言われたこともある。  僕たちは姉と僕2人、っていうか、友達もいっぱいいてみんなで、っていう感じだからなんじゃないかと思う。うちにみんなが集まるから、自然と姉と過ごす時間も長くなる。  お姉ちゃんは、結局何も言わなかった。  言いたそうな顔をしてたけど、僕をじっと何回か見てたけど、言わなかった。  その夜はよく眠れなかった。明日、暑い中自転車に乗る予定だからちゃんと寝ようと思うのに、ドキドキそわそわして上手く眠れない。  明日は、いやもう今日か。今日は耀くん家に行く。  耀くん家に行って、この前の、耀くんの告白への返事をする。  僕はやっぱり耀くんを独り占めしたい。  この気持ちは、恋だと思う。

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