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第28話

 夏休みの朝は、普段はゆっくりめに起きる。なんなら昼までだって寝られるけど、あんまり時間をずらすと休み明けがキツいのと、なんだかんだ言って平日はほぼ毎日誰かしら家に来るから、学校のある日よりは遅い、くらいに起きる生活を送ってる。  それが、今朝は学校のある日より早く目が覚めてしまった。外がやけに静かで、でももう十分に明るい。  起きたけど、早すぎて「どうしたの?」と訊かれそうで、僕はベッドから動けないでいた。  あんまり眠れなかったな。ま、仕方ないか。  今から既に少しドキドキしてる。  でも、僕が家に行きたいって言った時点で、耀くんは僕の気持ちは分かってるんじゃないかと思う。  何て切り出せばいいんだろう。告白なんてしたことない。  正確には告白への返事、だけど。でも自分の気持ちを伝えるんだから、告白でいいか、と思う。  枕元に置いてあるスマホを取って、昨日のメッセージを見返す。耀くんが僕より遅めに来るから、その間に本を選ばないとな。  耀くんも本借りるのかな。せっかく行くし借りるか。  本好きだもんね。学校の図書室は制覇したって、小学校の時も中学校の時も言ってた。  中2の時、僕は図書委員をしてた。昼休みと放課後、委員が図書室を開ける。  僕が当番の火曜の昼休みと、金曜の放課後。たいてい耀くんは図書室に顔を出した。僕は学校で耀くんに近寄らないようにしてたから、それが校内で唯一の耀くんとの接点だった。  とはいえ、放課後になれば耀くんはうちに寄って行くからほぼ毎日会っていた。僕は学校では口をきかず、家に来た耀くんには変わらず「耀くん」と話しかけてた。  そんなことを思い出しながら起き出して、僕たちが夏休みの間も平常通り仕事に行く両親の慌ただしい朝の様子を横目に見ながら朝食をとった。姉も起きてきて朝食をとって「碧、悪いけどあたし用意に時間かかるからお皿洗っといて」と言って、さっさと部屋へ戻ってしまった。  まあでも、お姉ちゃんが何も言ってこないからいっか。  そう思いながら4人分の朝食のお皿を洗った。夏、冬、春休み中の朝食の皿洗いは僕か姉がすることになっている。  姉と違ってオシャレして行くわけじゃないし、僕の私服のパターンは耀くんは全部知ってるから今更だし、とりあえず寝癖のチェックだけして出かけることにした。  耀くんにメッセージ送っとこう。 ーーーおはよう、耀くん。これから出ます。本選んだらメッセージ送ればいい?  と返信したところで部屋のドアがやや乱暴にノックされた。 「碧、自転車ならちゃんと日焼け止め塗って行きなさいよ。あと帽子、被ってね。あんた真っ赤になっちゃうから」  そう外から大きな声で言われた。自分の日焼けの体質のことなんてすっかり忘れてた。なんだかんだ言って、お姉ちゃんはやっぱりお姉ちゃんだ。 「分かったー」  と返事をしたところでスマホが震えた。 ーーおはよう、碧。それでいいよ。気を付けてな。  これから耀くんに会うんだと思うとそわそわする。そわそわしながら、姉の言いつけ通り日焼け止めを塗って、キャスケットを被って帽子留めのクリップを留めた。  バッグの上のスマホが再び震えた。 ーー碧、図書館たぶん寒いから上着持ってけよ。  わ、そんなこと考えてなかった。 ーーーありがと、耀くん。持ってく。  慌てて長袖のシャツをクローゼットから出してバッグに入れた。 「お姉ちゃん、僕もう出るよ」  姉の部屋の前で声をかける。 「はーい、分かった。車に気を付けてね」  女の子は大変だなあ、と思いながら階段を降りているとガチャッとドアを開ける音がした。 「碧、帽子、クリップで留めてくのよ。自転車だと飛んじゃうから。あんた頭ちっちゃいんだから」 「はーい、ちゃんと留めてまーす」 「あと、たまたま耀ちゃんに会ったらよろしく言っといて」 「え?」  

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