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第34話

 僕は頭を撫でられながら、またカップを傾けた。耀くんの入れてくれた甘いコーヒーを飲んでいると、身体が中から甘くなっていく気がする。 「じゃあさ、碧。しばらくはこのまま、今までのままでいよう。元々俺はお前に甘かったから、多少のことはみんな気にしないだろうし。ああでも、うっかり友達以上の事しそう、俺。やばいな」  そう言って耀くんが笑う。  ハニーディッパーからとろりと垂れてくる蜂蜜みたいに、耀くんの声が耳にとろりと入ってくる。鼓膜を震わせた後、頭が痺れるような甘さをを感じた。 「あと、陽菜に何か言われたら言って。どうするか考えよう」  僕はまた、こくりと頷いた。  耀くんの声、こんな感じだったっけ?  声の方が変わったのか、聞いてる僕の方が変わったのか。  両方…かな? 「陽菜、この前もお前に絡んでたもんな。俺が依人の誘いを断った時」 「うん…。お姉ちゃん、ちょっと怖い」  耀くんはお姉ちゃんの気持ち、気付いてるよね?  ちらっと上目で耀くんを見た。 「陽菜は強いからなぁ」  苦笑しながら耀くんが立ち上がった。 「碧…」  耀くんが僕の手を引く。引かれるままに僕も立ち上がった。  じっと僕を見ながら、耀くんが僕に腕を伸ばす。  その腕に引き寄せられるように前に出ると、耀くんが僕をぎゅっと抱きしめた。    暖かい広い胸と長い腕。すっぽり包まれる充足感と満足感。  耀くんの背中に回した腕に力を込めた。  ここは誰にも譲らない 「碧、今日借りた本、どれぐらいで読める?」 「え? あ、えっと、いつもは2週間いっぱい使って読む、けど…」  訊かれた意図を、一拍遅れで理解した。 「頑張れば、もっと速く読める、と思う」 「じゃあ次は最初から一緒に行こうか」 「うん」  図書館に行くのは、別に怪しくないと思う。今回は上手く示し合わせられてなかったけど、普通に予定を組んで行けば、たぶん大丈夫。 「もっと早く誘えばよかったな、図書館。お前、学校で本借りてきてるなって思って言わなかったけど。夏休み入ったら言えばよかった」  残念そうな耀くんの声。 「…僕と出かけたかった?」  ちょっと自惚れながら訊いてみた。 「出かけたかったよ、2人で」  耳元で囁かれて胸が高鳴る。 「2人でスーパー行くのだって楽しかったよ、俺は」  僕をかき抱きながら耀くんが言った。 「うん…」  息が苦しいのは、僕を抱きしめる耀くんの力が強いからか、心臓の拍動が速すぎるからか。 「碧…」  少し腕の力が緩まって、耀くんが僕の顔を見下ろした。大きな手が頬を優しく撫でる。 「キス、してもいい…?」  親指の腹で、下唇を撫でられた。顔がますます熱くなる。  耀くんを見上げる目が潤んできてしまう。 「駄目…?」  もう一度訊かれて、首を横に振った。  顎を少し持ち上げられて目を閉じる。 「可愛い…」  耀くんの囁きが吐息に乗って唇にかかった。  大きな手で両頬を包まれる。  閉じた瞼にふっと影が落ちた。  わ…  びくりと身体がすくんでしまった。  一度柔らかく触れた唇が、もう一度、今度はさっきよりしっかりと重なる。  どくどくと世界が揺れるほど鼓動が強い。  唇が、離れては角度を変えて啄むように吸われて、頭が痺れてきた。  背中に回した手で耀くんのシャツを掴んでどうにか立っているけれど、足元も徐々にふわふわしてきている。 「碧…」  キスの合間に耀くんが僕に呼びかけた。  長い腕が背中に回って身体を支えてくれる。もう、そうして支えてもらわないと立っていられない。 「好きだよ」  囁かれて、膝の力が抜けてしまった。耀くんが少し慌てたように僕を抱き止める。 「ごめんごめん、碧。ちょっと調子に乗りすぎた」  くたりとしてしまった僕を、しっかり抱きしめながら耀くんが言った。 「あんまりお前が可愛いから、やめられなかった。でもほんと、この辺にしとかないと俺がやばい」  そんなことを言いながら、耀くんは僕の首筋に鼻先を擦り寄せる。くすぐったくて僕は首をすくめた。 「続きはまた今度」  そう言って、耀くんは僕の首に口付けた。  …続き…  

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