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第41話

 2人が階段を昇っていくのを見送って、さっちゃんがふふっと笑った。 「なんか思わぬ展開ね。わざと? 依ちゃん」 「わざとじゃねーよ。おれだってこうなるとは思ってなかったよ。まあ陽菜は敬也を男だと思ってねーからな」 「敬ちゃん陽菜ちゃんのこと大好きなのにね」  少し舌足らずな喋り方をするちかちゃんの、大好きという響きが妙に耳に残った。 「ま、あの2人はそっとしておきましょ。ちかちゃん、もうちょっと宿題やっとかないと終わんないよ、休み中に」 「じゃ、ちかもこっちのテーブルでやる」 「狭いからテーブルもっかい動かしてあげるよ。依人、手伝って」  ほーいと返事をした依くんが立ち上がって、耀くんと2人でローテーブルを運んでくれる。たぶん1人で運べるんだろうけど、万が一手が滑ったら床に傷が付くから気を付けてくれてるんだと思う。  そんな気遣いをみんながしてくれるから、うちは人が集まっても荒れないし、親たちも嫌な顔をしない。 「降りてこないねー、あの2人」 「結構な量のアルバムあったでしょ。前に陽菜に見せてもらったけど」 「お父さん写真好きだから。やだなー恥ずかしい」 「大丈夫よ碧。可愛いから」 「さっちゃん…」  さっちゃんは何気に一番何を考えてるのか分からない。  またみんな机に向かってそれぞれの勉強をしていると、ようやく2人が2階から降りてきた。  敬也は俯いたまま顔を上げない。頬が赤い。  みんな見て見ぬふりをしてる。  お姉ちゃんは至って普通だ。さっちゃんと依くんが目を見合わせて少し首を横に振った。  まだぼんやりと問題集を眺めている敬也はそっとしておいて、僕はさっきからどうしても解けない数学の問題を、自力は諦めて教えてもらうことにした。 「ねぇ耀くん、これ、解けない」 「うん?」  耀くんが、すぅっと僕の方に寄ってくる。問題集を覗き込む動きだけど、近い。肩が、腕が、耀くんの体温を感じている。  ほんの少し、僕も耀くんの方に寄る。  数式の説明をする耀くんの声が、触れている腕からも響いてくる気がした。  抱きしめられて話す時の、肌からダイレクトに声が聞こえるような、あれをまた感じたい。 「解った? 碧」 「…わかんない…」  つい、甘えた声が出た。でもタイミング良くさっちゃんもちかちゃんに英語の文法の説明をしてて、その上誰かのスマホの着信音が鳴ったから、たぶん誰にも聞かれずに済んだと思う。 「じゃ、もっかい最初からね」 「うん」  2回の説明でやっと理解して、でも解ったら耀くん離れちゃうんだよなと思った。  仕方ないけど。 「解った?」にうんと頷いて応えた僕の顔を少し覗き込んだ耀くんが「良かった」と言って僕の頭を軽く撫でた。依くんが「耀、おれができた時も撫でて」と言って、耀くんは腕を伸ばして依くんの頭を乱暴に撫でた。

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