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第45話
「あれ? 誰? まさか耀ちゃん?」
早くない? と呟きながら姉が階下に向かった。
「萌ちゃん、髪の毛ちょっと手伝って」
ちかちゃんがドアから顔を覗かせる。
「はーい。碧、お大事にね」
「うん。ありがと」
パタパタと萌ちゃんが出ていくと、またさっちゃんと2人になった。ドアがちゃんと閉まらなかったから姉と耀くんの声が聞こえる。さっちゃんが静かにドアを閉めた。
「耀ちゃん早かったわねぇ。集合時間に来たって全然いいのに。愛されてるね、碧」
そう言って、さっちゃんが僕に微笑みかける。じわりと涙が滲んだ。
「泣かないで。私が泣かしたと思われるじゃない。耀ちゃんに睨まれちゃう」
笑いながら、さっちゃんが僕の頭を撫でる。
階段を昇ってくる2人分の足音が聞こえてきた。
「私はね、碧。…ちかちゃんが好きなの」
「え…」
驚いてさっちゃんを凝視した。さっちゃんはにっこり笑った。
「ますます可愛くなったわね、碧」
コンコンコン、とノックが聞こえた。カチャリとドアが開く。
「碧、大丈夫か?」
耀くんが汗を拭きながら入ってきた。ドアの外に姉が見えた。
「耀ちゃん、予想以上に早かったわね」
さっちゃんが耀くんに小声で言った。耀くんがさっちゃんを見下ろす。
「桜、ありがとな」
耀くんもさっちゃんに小声で言った。さっちゃんは首を横に振った。
「私も着替えよーっと。じゃ、耀ちゃんよろしくね」
さっちゃんがドアをパタンと閉めて、耀くんと2人きりになる。
「熱、あるんだって?」
耀くんの大きな手が額に触れる。外から来たばっかりだからか、さっちゃんの手みたいにひんやりしない。
「分かんないな。俺も急いで来たからまだ熱いみたいだ」
僕の隣に座りながら耀くんが言った。頬を汗が流れた。
「寝てなくて平気か?」
サラリと、頭を撫でる大きな手。
「今のところ大丈夫。さっちゃんに言われるまで風邪ひいてるの気付いてなかったもん。喉は痛いなって思ってたけど」
「ああ、これのど飴の匂いか。甘い匂いがしてる」
くん、と匂いを嗅ぎながら、耀くんの顔が近付いてくる。
「ダメだよ、耀くん。風邪うつっちゃうから」
「俺、体力あるから平気。それにほら、うつしたら治るって言うじゃん」
「でも…っ」
頭の後ろを押さえられて、やや強引にキスをされた。
「…甘い。青リンゴ?」
「…うん…」
ぺろりと唇を舐めた耀くんの舌を、ついじっと見た。
「碧、その目、やばいから」
「え?」
「まあでも、俺のせいか…」
ふっと笑った耀くんが、また頭を撫でてくれる。僕はうっとりと目を閉じた。
途中で額に触れた耀くんが、
「やっぱあったかいな。熱計っとこうか。体温計借りてくるからちょっと待ってて」
そう言って額に軽くキスをして部屋を出て行った。
熱なんか計らなくていいからずっとここにいてほしい。
それが本音。
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