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第47話
幸せな気持ちで眠ると、幸せな気持ちで目が覚める。
夕方に近付くにつれ、徐々に熱が上がってきて眠りが浅くなる。
耀くんが額に貼った冷却シートを取り替えてくれるのが気持ちいい。
何よりも、いつ目を覚ましても耀くんがいるのが嬉しかった。
さっちゃんありがとう
そう思いながらまた眠った。
コンコン、と控えめなノックの音が聞こえた。
耀くんがドアの方に歩いていく気配がする。ドアが開くカチャリという音。
「耀くんありがとう。碧、どう?」
お母さんの声。
「熱は高くないけど下がってはいませんね。夜だし」
「そっかぁ。昨夜ね、コンビニ行って雨に降られて。おんなじように濡れて帰って来ても碧だけ風邪ひいちゃうのよねぇ」
「昔っからそうですよね」
「そうそう。いつもありがとね。あとは私が看るから大丈夫よ。それとも陽菜が帰るまでいる?」
「…じゃあ、陽菜が帰るまで」
「分かったわ。何か少し食べるもの持ってくるわね。お腹空いたでしょ」
「お構いなく」
ぱたんとドアの閉まる音がして、耀くんがベッドの方に歩いてくる。
「あ、碧、起きてた?」
微笑みながら耀くんがベッドに腰掛けた。
「…ようくん。のど、かわいた」
手を伸ばして耀くんのシャツの端を掴む。
「スポーツドリンク、常温のがここにあるけど、冷たいのが良かったら取ってくるよ?」
「それでいい」
だからここにいて
耀くんに支えてもらって起き上がると、くらりと天井が回った。肩を抱かれたままスポーツドリンクを飲んで、飲み終わってもそのままもたれていた。
「碧、ほかほかしてる。寝た方がいいよ」
「…やだ。もちょっとこのまま…」
熱で頭がふわふわして、自分で自分を制御できない。
離れたくない ここにいてほしい 帰らないで
「碧…」
腕を耀くんの身体に回して頭を膝にのせて、力の入らない手でシャツを握った。
帰らないで ずっと僕のそばにいて
だって耀くんは僕のものでしょう?
わがままな思いが次から次へと湧いてくる。
困らせてるのは分かってるけど、それでも離れたくない。
「…かえっちゃ、やだ…」
耀くんが一つため息をついた。そして優しい手つきで僕の頭を撫でる。
また、意識が霞んでくる。耀くんの匂い、安心する。
遠くでノックの音を聞いた気がした。
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