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第48話
次に目が覚めた時、ずいぶん頭がスッキリしていた。
机のライトが点いてる…?
もぞもぞと寝返りを打って机の方を見た。
「耀くん…?」
カラカラに乾いた声が出た。耀くんが僕に視線を向ける。
「起きた? 碧」
「何時…?」
家がシンとしてる。確か耀くん、お姉ちゃんが帰るまでいるって言ってたけど。
「11時半。よく寝てたね。ああ、熱下がってきたかな」
僕の額の冷却シートを剥がして手を当てて、頬と首筋も順に手で包むように触れながら耀くんが言った。
「汗かいてる。着替える?」
「耀くん、時間へいき?」
「ん? ああ、家にはちゃんと連絡してあるから大丈夫だよ」
心配いらない、とふわりと微笑む。
寝る前に、何か口走ったような気がする。でも思い出せない。
「トイレ、行ってくる」
「一緒に行くよ。階段心配だから」
少しふらふらしながら部屋を出て、誕生日会の時みたいに手を繋いで階段を降りた。
リビングに明かりが点いてる。ソファに母が見えた。
「あら起きたの?碧。トイレ?」
「うん」
「耀くん、ありがとね」
「いえ」
耀くんに付き添われてトイレに行って、少しずつ足がしっかりしてきて、トイレを出たら耀くんが「俺も」と言うのでリビングに行ってることにした。
先にキッチンに寄って、冷蔵庫を開けて中を物色する。
スポーツドリンク、あるって言ってた。確か。
熱で記憶がぼんやりしている。でもちゃんとペットボトルが冷えていた。
「どう?碧。熱は…下がってきたみたいね」
母が僕の額に触れながら言った。
「お腹空いてる?」と訊かれて首を振った。母は「冷蔵庫に飲むゼリー入ってるからお腹空いたらそれでも飲んで」と言って、それから少し笑う。
「碧が耀くんにしがみついて離れないから大変だったのよ。覚えてないでしょうけど」
「えっ?!」
「あんた、耀くんのシャツしっかり握って寝てたから、耀くんそのままでおにぎり食べてね。いくら碧が小柄でも重かったでしょうに、膝にのせたままじゃ」
くすくす笑う母を見ながら、僕は軽いパニックに陥っていた。
しがみついて?! 膝にのせたまま?!
廊下を歩いてくる足音が聞こえた。
耀くん!
「お待たせ、碧。上戻る?」
「う、うん…」
「あれ? 熱下がったと思ったのに顔赤いな」
覗き込まれて慌てて顔を伏せた。あははと母が笑った。
「それはね、耀くん。恥ずかしがってるだけだから大丈夫よ」
「え?」
いたたまれなくて、自室に向かって歩き始めた。すぐに耀くんが追いついて、階段を一緒に昇ってくれる。
2階まで上がったら、お姉ちゃんの部屋のドアが音もなく開いた。
スッと中からお姉ちゃんが出てくる。
「熱、下がった?」
「…うん。下がってきた、みたい」
姉も、僕の額に触れる。耀くんと母の手は暖かかったけど、姉の手は冷たかった。
「碧、これ、お土産」
そう言って、姉がベビーカステラの袋を渡してくれた。
「明日までなら大丈夫だって言ってたから」
「ありがと、お姉ちゃん」
姉は少し強い視線で僕を見て、スッと目を逸らした。そして僕の後ろにいる耀くんを見た。
「耀ちゃん、泊まってくの?」
「帰ろうと思えば帰れるけど、おばさんが布団出してくれたし泊まってくよ」
「そう…」
姉は、じゃあおやすみ、と言って部屋に入った。
姉の部屋のドアが、ぱたんと閉まった。
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