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第50話

 胸がぎゅっとなって耀くんを見上げた。 「ああ、ごめん。言い方マズかったな。失敗って言ったのはね、碧」  耀くんが僕を長い腕でぎゅうっと抱きしめた。 「夜2人っきりになると、お前が可愛すぎて手を出しそうだからだよ」  耳に、耀くんの唇が当たっている。 「碧、耳が真っ赤」  可愛いね、と耳たぶにキスをして、耀くんが僕から手を離した。 「着替えも手伝ってあげたいところだけど、ちょっと自制心に自信がないからごめんな。じゃ、俺シャワー行かせてもらうね」  そう言いながら立ち上がった耀くんが、僕の頭をもう一度撫でた。 「碧、1コお願いがあるんだけど」 「…なに…?」  ドキドキしながら耀くんを見上げた。 「俺が戻ってくる前に寝ててほしい。寝たふりでもいいから。理由は…分かるよね?」 「…あ…」 『お前が可愛すぎて手を出しそうだからだよ』  耳元で言われた言葉。  また熱が上がりそう。  僕の髪にキスをして、耀くんが部屋を出て行った。  持っていた濡れタオルに顔を埋める。  湯気、出てるんじゃないかな。  それぐらい顔が熱い。  もぞもぞと起き出して、着替えを出して身体を拭いた。  着替えた服を持ってお風呂場に行って、中の気配を探って、耀くんがもう脱衣所にいないのを確認して洗濯カゴに入れた。  中から聞こえるお風呂場の水音がやけに気になった。  キッチンに寄って、冷蔵庫の中からゼリー飲料を取って飲みながら部屋へ戻る。  眠くはなかったけどベッドに入った。  ここで、昼間キスした  立って抱きしめられたり、座ってするのと、ベッドに押し倒されるのは全然違う。  体重をかけられて、動けなくなって少し苦しくて、すごく幸せな気持ちになった。  思い出すだけで胸が高鳴る。  あの続き、したい  喉が渇いてきて唇を舐めた。階段を昇ってくる足音が聞こえる。  寝たふり、しなきゃ  そう思って壁側を向いて目を閉じた。  ドアの開く音。微かな足音。うちのシャンプーの匂い。  耀くんが布団を敷く音を背中で聞きながら、今僕が起き上がって耀くんに抱きついたら、そしたら耀くんはどうするんだろう、とか考えた。  怒られはしないと思う。  でも「お願い」を蔑ろにされた、と失望されるかもしれない。それは嫌だ。  耀くんの「お願い」はきっと、僕を思ってくれてのことだから。  耀くんが明かりを消して布団に入る気配がする。 『すぐそばにいるのに触れないって、マジでキツい』  そう言った時の耀くんの声や腕の強さを思い出す。  ほんとだね、耀くん  手が届くところにいるのに触れ合えないのが、辛い。  早く風邪治して、って言われた。  寝よう。風邪は寝るのが1番だ。  耀くんが寝返りを打つ衣擦れの音、深くなっていく呼吸の音。  もう寝たのかな、耀くん。  耀くんの寝てる方に寝返りを打って、薄目を開けてベッドの下を覗き見た。  うわぁ…  隣で、大好きな人が寝てる  オレンジ色の常夜灯に浮かぶ、絵のように綺麗な寝顔。  すっごいいい夢見られそう  そう思いながら、再び目を閉じた。  耀くんの規則正しい寝息が聞こえていて、段々意識が霞んでくる。  朝起きたら、風邪治ってたらいいな  風邪が治って、元気になって、そしたら…  耀くんのしたいこと、全部してほしい  

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