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第51話

 翌日目が覚めたのは、いつもより遅い時刻だった。  風邪薬が効いてたんだろうな、と思った。  起きるのが遅かったから、耀くんはもう帰ってしまっていた。  枕元に置いてあるスマホの下にメモが挟んであって、大人っぽい綺麗な字で「おはよう。いつ起きるか分からないから一旦帰るよ」と書かれていた。  この前は消されてしまった耀くんの字。  これは置いておける。  帰っちゃったのは残念だけど、メモが手に入ったのは嬉しい。  こんなちょっとしたメモが嬉しいあたり、僕はかなり重症だ。  そんなことを思いながら、いつも通りとりあえずスマホを開く。  あ ーー今日は碧が昨日から風邪ひいてるから、うちでの勉強会はなしです。各自孤独に耐えて勉強してください。  姉のメッセージ。あとに「よろしくね」というセリフの付いたニヤリと笑う犬のスタンプが続いてる。  そしてそのあとに、みんなからの返信のスタンプ。ほとんどが「了解」で、それに「お大事に」が付いてることもあった。  耀くんからは「了解」とメッセージが入っていた。グループの方には。  僕個人の方には「こんなことなら帰らなきゃよかったよ」というメッセージが届いていた。  今日は、会えない  昨日べったり一緒にいたから余計淋しい。  姉が、今日は家に人を入れないと決めたら覆らない。  僕が風邪をひいたから仕方ないのかもしれないけど。  でも、もう治ってるのに  僕が起きる前に決めてしまわなくてもいいのに  鼻の奥がツンとした。唇をぐっと噛む。  耀くん、風邪うつってないかな  そう思ってメッセージを送ると、「大丈夫だよ」と返信がきてホッとした。  あんなにキスしたのに  体力あるから平気って言ってたけど。  会いたい。会って顔が見たい。  手の中でスマホがピロリンと音を立てた。  耀くんからのメッセージだ。 ーー碧は体調は? もう熱はないの? ーーーたぶん治ってる。熱は計ってないけどなさそう。 ーーそっか。良かった。  そんなやり取りをして、「しっかり朝ご飯食べるんだよ」と言われて、一旦スマホを置いた。  今日1日、どうしようかな。  母が用意していってくれたあっさりめの朝食を取っていると、姉がキッチンに入ってきた。 「治ったみたいね、風邪。見たと思うけど、今日は誰も来ないからゆっくりしなさいね」  そう言って僕の額に手を当てて、うん、と頷いて出ていった。  なんで勝手に決めちゃったの?って言いたかったけど、言えなかった。  それは、耀くんに会いたいのに会えないじゃん、って言ってるようなものな気がした。  テーブルの上に出してある風邪薬の箱に「今日1日は飲みなさいね」と母の字でメモが貼ってあったので、苦手な薬をどうにか飲んだ。  お皿を洗って部屋に戻って、残っていた読書感想文を書くことにした。  本を読むのは好きだけど、感想文は好きじゃない。どうして自分が感じた思いを他人に開示しないといけないか分からないし、それを教師に評価されるのも何か嫌だった。  嫌だけど、無理やり原稿用紙のマス目を埋めて、ふうとため息をついた。  昨日はここに耀くんが座ってた。  いつ目が覚めても耀くんがいて、すごく幸せだった。  たった1日会えないのが辛い。  土日は、会わないこともある。家の用事とか、親との外出とか。  でも平日は、特に長期休暇中の平日は、ほとんど1日中一緒にいるのが当たり前だから、急に会えなくなるとショックが大きい。  机の上に伏せてあるスマホがピロリンと鳴った。    ーー碧、図書館で借りた本、あと何冊?  淋しいと思っていたところに耀くんからメッセージがきて、胸がぎゅっとなった。 ーーー今読んでるので最後。  耀くんが「この中なら、これ」と勧めてくれた本。耀くんが言ってた通り、暴力シーンの描写は凄まじかった。匂ってくる、という表現がぴったりで、耐えきれず所々飛ばした。確かにドラマはもうちょっとマイルドだった。 ーーあと何日かかりそう? ーーーたぶん2、3日。耀くんは? ーー俺は今日読み終わると思う。碧ん家行けないし。 「行けないし」に「行きたかったのに」を感じた。  机の隅に立ててある本に目をやる。  あれを読み終わったら、図書館に行く。  耀くんと2人で。  その後は、耀くん家に行くんだと思う。  とくとくと心臓が主張を始める。  

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