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第53話

『ごめん碧。明日行けなくなった。祖母が倒れたって連絡があって、このあと母たちと母の実家に行かないといけなくなった。また連絡するから、ほんとごめんな」  早口で一気にそう告げて、通話が切れてしまった。  僕は呆然とスマホを見つめた。  明日、会えない…?  おばあさんが倒れた…。耀くんのお母さんの実家…。確か、飛行機で1時間ちょっとの所…。  明日…会えない  すぅっと体温が下がった気がした。  たぶん、明日だけじゃない。  耀くんがお母さんの実家に行く時は、たいてい3、4日は滞在する。  でも今回は突然だからすぐ帰ってくるのかな。    おばあさん、たいしたことないといいな。  そう思ったのは、心配だからというよりは、病状が軽い方が耀くんが早く帰ってくるんじゃないかと思ったから。  僕は自分のことしか考えてない。  耀くんにいつ会えるのか、しか考えられない。  すごい自己中で嫌なやつだ。  ズズッと鼻を啜った。目頭が熱くなって視界が潤む。  明日は会えない。3日後の図書館も分からない。  別に一生会えないわけじゃない。せいぜい4、5日、だと思う。  でも、でもだけど。  1日だって、こんなに長いのに  友達に数日会えないのと、恋人に会えないのはこんなにも違うのかと思い知った。  同じ耀くんなのに  でも全然違う  手の甲で涙を拭いながら本を開いた。  こんな突然だし、耀くんの両親だってそんなに長い休みは取れないんじゃないかと思う。それならすぐに帰ってくるかもしれない。  そしたら、耀くんが帰ってきたら図書館に行けるから、だから本は読み終わっておかないと。  勉強も、ちゃんと問題集をやっておくんだ。帰ってきたら見てもらえるように。  ぽっかり空いてしまった時間と心の穴を埋めたくて、僕は必死で分厚い本のページをめくった。残虐な暴力シーンも飛ばさずに吐き気を堪えて読んだ。  その方が、淋しさを忘れられた。

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