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第57話
階段を昇ってくる足音が聞こえてきた。溶けていた気持ちがスッと冷える。
「耀くん、お姉ちゃんが出てきたみたい…」
『分かった。切っていいよ。また連絡する』
「うん。じゃあ、バイバイ」
耀くんが、僕が切るのを待ってくれてるから、鼻を啜りながら通話を切った。
姉の足音が部屋の前で止まった。
コンコンとノックがして、「碧、お風呂お父さんが先に入るって」と姉が言った。僕は「はーい」と応えた。
ドア、開けられなくてよかった。
開けられて顔を見られたら、泣いてたのがバレる。
お風呂、お父さんが先だったのもよかった。とりあえず目薬差そう、充血取るやつ。
耀くん、僕のこと嫌いになるのは難しいって、言ってた。
そう思うとまた涙が滲んでくる。ずずっと鼻を啜った。
泣きながら、自然と顔が笑ってしまう。笑っちゃうけど涙が止まらない。
こないだは耀くんが「止まらないね」って言って涙を拭いてくれた。
僕はこんなに泣き虫だっただろうか。耀くんのことになると感情の起伏がおかしい。
お姉ちゃんには、僕は変わったって言われた。耀くんにも…。
そのうちお姉ちゃんにはきちんと話さないといけないんだと思う。
…分かってるわよ、って言われるんだろうけど。
やっと涙が止まって、ふぅと息をついた。
握ったままだったスマホがブルっと震えた。
耀くんだ。
ーーそろそろ泣き止んだ?
実は見えてるのかな、僕のこと。
ーーーうん。もう大丈夫。
いえーい、とセリフの付いた、親指を立てたネコのスタンプを一緒に送った。
ーーよかった。
耀くんの声が耳元で聞こえた気がした。
早く会いたい
会って、顔を見て、触れ合いたい。
あの腕の中で溶かされたい。
早く帰ってきて
早く 早く 早く
神様でも悪魔でもいい
早く僕に耀くんを返して
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