そんな風にして、どうにか１日を過ごした。 　離れて座ったから、あまり姉とは話さなかった。時々目をやると、敬也は前よりは自然に姉に話しかけるようになっていて、それを依くんが、うんうんって頷きながら見てた。 　さっちゃんはずっと、ちかちゃんの宿題を見てあげてた。お姉ちゃんが妹を見てるみたいに見えるけど、さっちゃんの心の中は違うんだよなと思った。 　その姿に、少しだけ耀くんと自分が重なった。みんなには僕たちがこんな風に見えているのかな、と思った。 　みんなが帰ってからやっと、僕は耀くんにメッセージを送った。耀くんからは、おばあさんの容体がずいぶん良くなったと返信がきて、僕はみんなが耀くんからのメッセージのスクショを撮ってたことなんかを送って、夕食を挟んでまた姉がお風呂に入ってる間に電話で話した。 　あんなに進むのが遅かった時間が、耀くんの声を聞いているとあっという間に過ぎていく。早送りされてるみたいだ。 　絶対時間って伸び縮みしてると思う。 『そうだ、碧。明日はこの時間移動だから電話はできない。ごめんな』 「あ…そっか…」 　声も聞けない 　でも帰ってくる 「分かった。気を付けて帰ってきてね」 　名残惜しさいっぱいのまま、通話を切った。 　明日はメッセージだけ。でも明後日には会えるから。 　 　昨日もおんなじように「明日には会える」って思ってたから、ちょっと怖い。 　そう思っていると再びスマホが鳴った。 ーー碧、明日は電話できない分こまめにメッセージ入れるようにするから、みんなにバレたくなかったら気を付けてて。返信はしなくていいから。 　耀くん、やっぱり見えてるんじゃないかな、僕のこと。心の中まで。 　昨日は、耀くんが僕を好きなのが勘違いだったらどうしようって思った。 　でもたぶん耀くんは僕より僕のことを解ってる。 　隠し事とか絶対できない。 　手強い恋人 　言わなくても分かってくれる、察してくれる相手っていうのは、自分の中身まで全部透かして見られてるようなものなんじゃないかな。 　それは、ちょっと怖い 　でももう手遅れだ。怖くても離れられない。離れるつもりもない。 　海月(くらげ)みたいに内側を晒しながら、耀くんの紡ぐ蜂蜜の海に浮かんでいたい。 　 　そんなことを考えながら、ようやく耀くんに返信をした。 ーーーうん。分かった。 　バレたくないのかどうかも分からなくなってきてる。 　だって自慢の恋人だもん 　そう思いながらスマホを伏せた。 　前日と同じようにメッセージの着信音で目が覚めた。 　おはようの後、親戚が顔を出したとか、お土産にマスカットをもらったとか、一言二言がポツポツと送られてくる。返信しなくていいと言われてるから、その他愛ないメッセージをただ眺めていた。 　みんなが来る時間になって、今日も姉とは対角線上くらいに座って、萌ちゃんや啓吾と話しながら勉強して、その間もメッセージは届いていた。 「今日、よく鳴るね、碧のスマホ」 　萌ちゃんにそう言われて「そうかな」と誤魔化した。 　明日退院するおばあさんの最後の面会に行ったとか、ついでだからとお母さんの友達の家に連れて行かれたとか、せっかくだからと名物料理を食べに来てるとか、手に取るように耀くんの様子が分かる。 ーー碧ん家に持って行く分とか、両親の会社用とかのお土産、宅配に出したよ。持って帰るの大変だし。 　そのメッセージで、耀くんがこっちに帰ってくる準備に入ってるのが分かった。 　ちゃんと帰るよって、今度は「やっぱり会えない」はないよって、そう言ってくれてる。 　それに気付いて泣きそうになった。 　トイレに行くふりをしてリビングを出た。洗面所に鍵をかけて、改めて朝からのメッセージを見返した。随所に「帰り支度」を連想させる言葉が散りばめられていて、なんでさっきまで気付かなかったんだろうと思った。再びスマホがピロリンと鳴った。