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第62話

 リビングに戻って、またみんなと過ごした。膝の上でスマホが震えて、その度こっそりメッセージを見た。  また別の親戚の人が来て小さい頃の話をされる、と書いてあった。そして今回は梨をもらったそうである。 ーーもう荷物送ったから俺のバッグに入れられた。重い。  着々と耀くんの帰り支度が整っていく感じに安心する。  明日には会える。今度こそ。  図書館に行くのは電車? 自転車?  この前は自転車。耀くんの広い背中を見ながら漕いだ。  今度はどうしようか。  そう思いながら、分厚い本の残りのページを読み切った。  みんなが帰ったところで耀くんにメッセージを送った。 ーーー明日、電車がいい。喋れるし。  自転車は移動中喋りにくい。 ーー了解。待ち合わせは駅? 迎えに行ってもいいよ?  迎えにくるのはさすがに。 ーーー駅がいい。朝からお姉ちゃんとバトルになっちゃう。 ーー陽菜、機嫌悪い? ーーーよくはないよ。はっきりは言わないけど。 ーーそっか。何とかしないとな。  そんなやり取りをして、帰宅した母といつものように3人で夕食の支度をした。  僕と姉があまり話さないから、母が「何かあったのね」という顔で僕たちを見た。  でも僕も姉も何も言わず、最低限の会話だけをして夕食を終えた。  片付けを終えて部屋に戻って、でも今日は電話できないんだっけ、と思った。  声、聞きたい  聞けないと思うと余計聞きたい。  なんかもうダメダメだ  スマホを開くと、耀くんも夕食を摂ったとメッセージが入っていた。 ーーそろそろ空港に向かうよ。  空港。最終便で帰ってくる。 ーー碧、明日の待ち合わせ、駅に9時でいい? ーーーうん。 ーーあと14時間くらいだね。  長いのか短いのか分からない。 ーーーうちの時計、止まってるみたいに遅いよ。 ーー俺も時計何回も確認したよ。 ーーー進まないよね。 ーー進まないね。  トーク画面を見ながら1人で笑った。  格好いい耀くんと下らない会話をしてる。  付き合ってるってこういうことなのかもなって、ちょっと思った。  その後しばらくして、「空港に着いたよ」とメッセージがきて、次のメッセージは「もう乗るからまたね」だった。空港内は親とずっと一緒だろうから、そんなに送って来られないよね、とも思った。  それでも2通送ってくれたのが嬉しい。  耀くんが飛行機に乗ってる1時間ちょっとの間に、お風呂に入って明日の準備をした。  耀くんはこのあと空港に着いて、それから家に帰って、それで明日9時に駅でいいのかな。疲れてるよね。  だって、突然うちに泊まることになって、次の日はまた突然おばあさん家に行って、だもんね。  そう思って、耀くんから「電車に乗ったよ」の後の「家に着いたよ」のメッセージがきた時に、 ーーー明日9時で平気? もうちょっと遅くてもいいよ?  と訊いてみた。  すぐにメッセージの着信音が鳴った。 ーー9時でいい。もっと早くてもいい。早く碧に会いたい。  うわ    メッセージを読んだ途端、耀くんに抱きしめられた感触を思い出した。  身体が勝手に熱くなる。心臓が脈を速めて息まで上がってくる。  唇を噛んでスマホの画面に指を滑らせた。 ーーーじゃあ、9時前に着くように行くね。図書館9時からだもんね。 ーー分かった。碧、明日図書館に行くって陽菜に言ってあるの?  今度はさっきと違う動悸がした。 ーーー言ってない。でも気付いてるかも。さっちゃんは気付いてたし。 ーーそっか。桜と話したの? ーーーうん、ちょっとね。明日話すね。 ーー分かった。碧、今日はちゃんと寝ろよ。この前うちで寝てたし。眠ればすぐに朝だ。 ーーーうん。がんばる。  頑張って寝る、っていうのも変な感じだけど。  おやすみ、と送り合ってスマホを伏せた。  明日は耀くんに会える。そう思うとドキドキして眠れそうにない。  でも耀くんと会ってる時間に眠くなったらもったいないから寝なきゃ。  耀くんはこういう時、眠れないとかないのかな。パキッと切り替えられんのかな。  そんなことを考えながらベッドで目を閉じた。  眠れないかと思ったけど、今日は感情面で疲れていたせいか、割と早くウトウトしてきた。  眠ればすぐ朝だ  耀くんのメッセージが、耀くんの声で脳内再生される。  普段あっという間に来る朝は、明日も早く来るんだろうか。    伸び縮みする時間。   きっと明日は1日が短い。  早く碧に会いたい  そう、耳元で囁く声を思い描く。  僕も早く、耀くんに会いたい  

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