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第79話

 付き合ってるって言ってしまえば、可能だと思う。でもそれは、やっぱり抵抗がある。  じりじりと、昨日の何倍もの時間をかけて秒針がゆっくりと回っている。  僕は解けている問題の復習をすることにした。途中、啓吾に訊かれた問題は解ったから教えてやった。萌ちゃんも啓吾と一緒に僕の説明を聞いていた。  窓の外が真っ白になって庭木の影が短くなった頃、誰かのお腹がぐーっと鳴った。 「もー無理。腹減った。昼飯にしよーぜ」  依くんがうーんと伸びをしながら言った。 「なんかさー、改めて席決めとかすると移動しちゃいけない気がして、ちょっとやりづらかったね」  えりちゃんがちょっと眉を歪めて言う。 「とりあえずお昼にしよっか。みんなテーブルの上の物どかしてー」  姉のその言葉にみんなが「はーい」と言いながら、それぞれの勉強道具をテーブルから下ろして、適当に床に置いたりバッグに入れたりしていた。  耀くんは床に置いてあったデイバッグにザザッと教科書とかを入れていて、近付いた僕を見上げると、僕が手に持っていた問題集とかに手を伸ばして、やや強引に取り上げて耀くんのバッグの隣に置いた。 「午後は碧の勉強を見てやらないとな」  そう言って、少し疲れた顔で笑った。  お昼ご飯はいつものように準備のできた人から適当に座って、僕と耀くんもタイミングを合わせて並んで座った。ちかちゃんは今日も耀くんの正面に座って、上目遣いで耀くんを見ながらサンドイッチを齧っていた。  昼食の片付けをしていると、耀くんが額に手を当てながらダイニングの椅子に腰掛けた。 「なんか、ちょっと頭痛い」 「え? 大丈夫? 耀くん」  最近ずっとバタバタしてたから、疲れが出てるのかもしれない。 「碧の部屋で休んだら? 碧、エアコン入れてきな、部屋の」  姉にそう言われて、慌てて2階へ上がって自分の部屋のエアコンを付けた。  風を通すために開けてあった窓を閉める。部屋を見渡して、まあこれぐらい大丈夫、と思いながらも少し片付けた。  キッチンに戻ると、耀くんは額に手を当てて、テーブルに肘を突いて目を閉じていた。  まつ毛、長い…  つい見惚れてしまった。我に返って耀くんの肩に少し触れる。 「耀くん、僕の部屋で休む? エアコン入れてきたよ?」 「…休む。連れてって、碧」  目を開けた耀くんが、僕を見上げて少し甘えるように言った。  胸の奥がきゅんとする。 「え? 耀くんどうしたの?」  と、ちかちゃんが言って、姉が「頭痛いんだって。ちょっと上で休んでもらうから」と言った。  2人で階段をゆっくり昇って、眉間に皺を寄せた耀くんを見上げながら部屋のドアを開けた。 「まだちょっと暑いけど…」  言い終わる前に僕を抱え込むように部屋に入った耀くんが、素早く静かにドアを閉めた。  そのままぎゅうっと抱きしめられて息が苦しい。  いつもより、力が強い。

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