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第80話
「…耀…くん…?」
「碧が足りなくて死にそう…」
耳に直接声を吹き込まれてぞくぞくした。
「ひゃっ」
耳たぶを唇で挟まれて身体がすくんだ。急速にどくどくと心臓が大きく鳴って、ぐんと体温が上がってきてしまう。
そのまま耳たぶをちろりと舐められた。
「…あっ」
「やば、声可愛すぎだろ、碧」
「よ、耀くん、頭痛は…?」
ドキドキしながら耀くんにしがみついて訊いた。
「ごめんな、頭痛いの嘘だから」
「…え…?」
「嘘ばっかりついてる俺のこと、嫌いになった…?」
僕の顔を覗き込んで、苦く笑いながら耀くんが言う。
少し、不安そうな顔をしてる。
そんな心配1ミリもないのに。
「ううん、ならない。てゆーかなれないよ。嫌いになんて…」
だって大好きなんだよ、と広い胸にしがみつきながら小さく告げた。
顔を見てなんて絶対言えない。
しがみついた胸の中で、耀くんの心音が強くなった。
ぎゅううっと強く抱きしめられる。
「…碧が好きすぎて死にそう…」
そう呟いた耀くんが、僕を抱き上げてベッドに押し倒した。
しっかりと体重をかけられて唇を奪われる。割り入ってきた舌が好き放題に僕の口の中を舐め回す。耀くんの大きな手が、頭を、身体を撫でていく。
動けなくて、苦しくて、幸せ
でも…
「…よ、ようくん…、ようくん…」
キスの合間にどうにか呼びかける。
「ん?」
息を乱した耀くんが、ようやく唇を離して僕を見下ろした。
「…もどれなく、なっちゃうから…」
一度知ってしまった快楽に、身体が落ちそうになってる。さすがに階下に友達がいる家で、あんなことはできない。そう思う理性が溶けかかってる。
「ああ、悪い。ちょっと飛んでた」
僕の両脇に肘を突いたまま、耀くんが自嘲気味に笑った。
「俺、さっき碧のことしか考えてなかった。ここがどこか、とか、今の状況とか、全部吹っ飛んでた」
止めてくれてありがとな、と額に軽くキスされた。そして身体を起こそうとしたから、反射的に抱きついた。
「碧?」
「…もちょっとこのまま…だめ?」
「…駄目、なわけないだろう?」
僕に頬を擦り寄せて耀くんが言う。低い声が甘い。
「耀くんはともかく、僕がいつまでもここにいたら怪しいよね」
「まあ…そうかもな」
ひとしきり抱きしめ合って、満足はしないまでも飢えるほどではなくなって、やっとベッドに腰掛けた。
「でももう充分怪しいくらい時間経ってるけどな」
ちらりと時計を見た耀くんが言った。僕も時計を見る。
「うわ、ほんとだ。また時間が早送りになってる」
ほんの数分、耀くんと抱き合っていたつもりが30分以上経っていた。
「どーしよー、耀くん」
ここまでくるとどうでもいいような気になってしまって、耀くんにもたれた。
「うっかり寝てた、ってのが1番マシなんじゃないかな。言い訳として」
「うん、そだね。お昼ご飯の後だしね」
そういうことにしようか、と言い合って、目を見合わせて2人で笑った。
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