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第81話
リビングに戻ると、さっちゃんが「耀ちゃん大丈夫?」と訊いて、耀くんが「ちょっと寝たら治った」と言った。さっちゃんが僕の方を見たから「僕もうっかり寝ちゃった」と言うと、「そっか」と笑ってくれた。
心配したほどみんなに色々言われなくてホッとした。さっちゃんと姉が何か言ってくれたのかもしれないなと思った。
それからいつものように耀くんの隣に座って、耀くんの買ってきてくれたお土産の葉っぱの形のお菓子を食べながら、問題集の解らないところを教えてもらった。僕たちを横目に見ながら、姉は敬也の質問に応えてやっていた。
ちかちゃんは勉強に飽きたみたいで、ソファに座ってスマホを見ていた。
「耀、耀、ちょっと助けて」
光くんが珍しく耀くんに泣きついた。
「数学のテスト範囲抜かってた。楽勝だと思ってたら3分の1くらい飛ばしてた。やばいよー。どうにか効率よく教えてくれよー」
「マジか、光輝。ていうかとりあえず一回は習ってるだろ。自力でなんとかしろよ」
少し呆れたように耀くんが光くんを見た。
「お前みたいに一回習ったからって覚えてねーんだよ。な、頼む。あと4日でなんとか。華も」
光くんは耀くんを拝んでる。華ちゃんも「お願い」と頭を下げてた。
「…2人とも範囲抜かってんの今まで気付いてなかったのか?」
耀くんがため息混じりに言った。光くんと華ちゃんはこくんと頷いた。
「しょうがないやつらだなぁ。どこが抜かってたんだよ」
耀くんのその言葉で、光くんが慌てて教科書を持ってきて「ここから…」と指差した。耀くんはうんうんと頷きながら、「まさかこの範囲全部解らないわけじゃないよな?」と訊いた。光くんと華ちゃんは目を見合わせて、へへっと笑った。解らないらしい。耀くんは、ふぅとため息をついた。
耀くん、自分の勉強もあるのに。
さすがに心配になって耀くんを見つめてしまった。視線を感じたのか、耀くんが僕の方を見て、ふわりと笑った。
それから耀くんは、光くんと華ちゃんに教科書の内容をサクサクと説明していった。姉たち同学年組は周りに集まってきて一緒に聞いている。このペースなら2日もあれば余裕なんじゃないかと思った。でも。
「待った、耀。速い、速すぎる。解った気がするけど覚えられてない。見直すから待ってて」
と光くんが言って、華ちゃんが「ごめん、ここもう一回」と言っていた。
前言撤回。4日間きっちりかかりそうだ。
やっぱり2人で過ごすのは無理、かなぁ。
夏休みが終わったら、朝少しと放課後しか会えなくなる。
僕たちは学校が違うから。
駅からの電車の方向も違う。
自分で選んだんだけど。
思わず今日何回目かのため息をついた。
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