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第83話

 耀くんに会えない。  始業式から3日は会えた。実力テストがあって、まあまあの手応えを感じて、そんな話を耀くんとした。3日目は土曜日で、返却には早いけど図書館に行った。ちょうど2週間後が耀くんの高校の文化祭だから、今回は返却だけにして、でも本を見ながらうろうろ歩いた。  それから耀くん家に行ったけど、耀くんの両親が揃って家にいたから、大人しく部屋でべたべたして過ごした。  日曜日はうちの親が「たまにはランチとかショッピングとか、みんなで行きましょ」とか言うから、耀くんには会えなかった。  その後の月曜から耀くんの高校は文化祭の準備期間に入ってしまった。当然姉も帰りが遅くなった。今は駅から母と一緒に帰ってきてる。 「水瀬先輩、今日も遅いの?」  敬也が不満気に言う。 「うん、遅い。あそこの高校行事が派手だから」 「だよなー。うちは地味だよな。去年見に来た時も思ったけど」 「その方が楽だけどね」  それも、僕がこの高校を選んだ理由の一つだった。  正直、学校の行事とか面倒くさい。  年中行事めいたことを家でやってきたから、そしてそれが楽しかったから、学校での制約も人数も多くてまとまりのない行事は好きじゃない。 「どうする? 敬也。うち寄ってくの?」 「寄ってくー。家で課題やってると妹に邪魔されるし」  自宅の最寄駅に着いて、つい向かい側のホームや階段に目をやって、ああそうだ、会えないんだとまた落ち込んだ。  少し前までは朝会えてた。でも今は、朝も耀くんは早く出てしまっていて会えない。  電話は、してるけど。  声だけじゃ、いやだ  姿を見たい  あの端正な顔を見上げたい  そしてあの大きな手で、頭を撫でてもらいたい  モヤモヤした気持ちを抱えて家に帰った。途中のコンビニでちかちゃんに会って「今日も耀くん来ないよね」って話したけど、ちかちゃんは一緒にうちに来た。萌ちゃんは今日は用があるから帰ったって言ってた。3人で課題をやっていると、依くんとえりちゃんが来た。 「陽菜たちがいないからどうしようかと思ったんだけどさ、どうしよっかーって言ってるうちに来ちまった。習慣てオソロしいな」  そう言って依くんがガハハと笑った。  依くんが課題をやりながら「ここ解んねー。なんでいねぇんだよ、耀」と叫んでいて、ちょっと羨ましかった。  僕も叫びたい  なんでいないのー?!って  まあ、なんで、なんて分かりきってるのに言ったって仕方ないんだけど。  ため息をつきながら冷蔵庫から麦茶を出していると、ちかちゃんがキッチンに入ってきた。 「碧ってさ、耀くんとすっごい仲良いよねー」 「え?」  羽ばたきそうに長いまつ毛のちかちゃんの視線が、ツキンと突き刺さる。 「この前碧と耀くんが話してたの聞こえたんだけど、耀くんがここで言ってなかったこと、言ってたよね、碧」 「…え?」  どくんと心臓が鳴った。 「ちか、あんまり記憶力良くないから間違ってるかもしれないけど、耀くんがおばあちゃん家に行ってる間に勉強してた、なんて話、してなかったと思うんだけど。でも碧、そんなこと言ってたねって耀くんに言ってたじゃない? だから、あれ?って思って」    手のひらに、じわりと汗が滲んだ。 「そう、だったっけ?」  動揺しているのがバレないように、ゆっくりと麦茶をグラスに注いで、ポットを冷蔵庫に戻した。ちかちゃんは僕をじっと見てる。 「だった気がするんだけど…。でも良く考えたら、碧と耀くんていっつも隣に座って喋ってるから、ちかが聞いてなかっただけかもしれないね」  ちかちゃんはそう言いながら、キレイにカールした茶色い髪を指に巻き付けて弄んだ。 「…碧はいっつも耀くんに隣においでって言われててずるい」  ピンク色の唇を歪めてちかちゃんが言った。 「それは碧じゃなくて耀に言った方がよくね?」 「依くん」  キッチンの入り口の柱にもたれた依くんが、腕を組んでこっちを見ていた。

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