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第84話

「あいつが碧を気に入ってて可愛がってんだからさ、昔っから」  なー、っと言いながら依くんが僕の頭を撫でた。  ちかちゃんは「そうだけどぉ」と頬を膨らませていた。  僕はこのことを、夜、耀くんに話した。 『そっか。それは面倒なことになってたな。うっかりしてた。ごめんな、碧』 「ううん、僕も気を付ける。それより耀くん、明日も来れないの?」 『うーん。たぶん文化祭終わるまで無理、かなぁ。ちょっと面倒な出し物に決まってさ。当日は楽なんだけど準備が大変なんだよ』 「耀くん、毎日準備出なきゃいけないの? 朝も放課後も」 『クラス委員だからね、ごめんな、碧』 「…わか…った…」  無意識に唇が尖ってくる。 『全然納得してないよね。ごめん、ほんとに。俺も会いたいけど、あ』 「なに? 耀くん」 『碧、コンビニ行かない? アイスの新作が出てる。確か』 「い、今から?」  もう21時を回ってる。 『迎えに行ってやるから外見てて。7、8分で着くと思うよ』 「あ、うん」  通話が切れて、しばし呆然とスマホを見て、ハッとして時計を見た。  7、8分後。  スウェットの短パンは履き替えて、サイフとスマホをポケットに入れてリビングに下りた。 「あら、どっか行くの? こんな時間に」 「あ、お母さん。コンビニ、行ってくる。新作のアイス、お母さんも食べる?」  エコバッグの入っている引き出しを開けながら訊いた。 「食べる食べる。買い出し用のお財布持ってっていいわよ。全員分買ってきて」 「うん」  返事をしながら、リビングの掃き出し窓のカーテンを少し開けて外を見た。  まだかな 「背中がウキウキしてるわね、碧」 「え?」  思わず振り返った。 「なんでもないわ。外、見てなくていいの?」 「あ、うん」  あ    あんまり明るくない街灯でもすぐ分かる。すごくスタイルのいいシルエット。    耀くん来た 「じゃ、じゃあちょっと行ってくるねっ」 「行ってらっしゃい。気を付けてね」  スニーカーを突っかけて、玄関に置いてある鍵を掴んだ。慌ててスニーカーを履きながらドアを開けると、耀くんが玄関前まで来ていた。 「碧、落ち着いて靴履いて。俺は逃げないから」  笑みを含んだ声で耀くんが言う。 「耀くん…っ」  数日ぶりに見た耀くんが格好よくて、僕は固まったまま動けなくなってしまった。耀くんはふっと笑って「しょーがないなぁ」と呟くと、僕の前にしゃがんだ。  そしてスニーカーの踵とシュータンを押さえて「ほら、足入れて」と履かせてくれた。 「ちっさい頃もこうやって碧に靴履かせたよね」  懐かしい、と耀くんが笑う。僕は耀くんの肩に手をかけて、反対側の足も履かせてもらった。  甘やかされるのは、恥ずかしいけど嬉しい。  そう思いながらドアに鍵をかけた。 「じゃ、行こっか、コンビニ」  そう言って歩き始めた耀くんを追いかけて横に並ぶと、 「お前はこっちね」  と肩に触れて歩道側に誘導された。 「碧」  わ  長い腕が肩にかかって引き寄せられた。  至近距離で耀くんが僕を見てる。

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