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第85話

「やっぱ可愛いな、碧は」  耳元で囁かれて息が止まった。心臓がどくどくいってる。 「よ、耀くんて、よく夜にコンビニ行くの?」  気持ちを落ち着かせようと思って、なんでもない質問をしてみた。 「いや、あんま行かない。帰りに寄ればいいしね」 「じゃ、出てくる時何か言われたり…しないか」  耀くん家、放任だし。 「しなかったよ。碧は? 何か言われた?」 「言われたよー。こんな時間に出かけるの?って。でもアイス買ってくるって言ったら、行ってらっしゃいって」  ゆっくりゆっくり歩く道。でももうコンビニの明かりが見えてきてる。 「そっか。やっぱ新作アイスは強いな」 「え?」 「何もないのにコンビニ行くって言ってもな、と思ってさ。碧は咄嗟に適当な理由が思いつかないんじゃないかと思ったから」  だからアイス買いに行こうって言ったんだよ、と言って耀くんが笑った。 「あ、でも今日新作アイスの発売日なのはほんとだから」 「うん、それは僕も知ってる」 「碧の好きそうなのだったよね」 「うん…」  耀くんは、僕の出かける言い訳まで考えてくれたんだ。  僕がぐずった一瞬でそこまで。  なんか泣きそう  そう思いながら、耀くんの腰に腕を回してシャツを掴んだ。花火の日だってこうやって歩いてたから、たぶん平気。 「…そういう可愛いことされるとさ、このまま連れて帰りたくなるよ」  耀くんがそう囁いて、肩に回した腕をさらに引き寄せた。  でも、とうとうコンビニに着いてしまって、2人とも渋々、ほんとに渋々お互いから手を離した。  目が痛いほど白い光の溢れるコンビニに入って、お菓子の棚とか無駄に見て、アイスのケースを一緒に覗いた。  鹿児島発祥の、果物のたくさん入った白いアイス。いつの間にか定番になって、色んなのが出てる。それのニューバージョン。 「碧は果物好きだよね」  耀くんがアイスを僕のカゴに入れてくれながら言う。「何個買うの?」と訊かれて「4つ」と応える。 「うちはみんな果物好きだよ。あ、お父さんはそうでもないけど」  そんなゆるい話をしながら買い物をしている間も、居合わせた女の人が耀くんを見ていく。ついでに僕の方もちらりと見る。  お互いにレジを済ませてコンビニを出た。帰りはあんまりゆっくりしてるとアイスが溶けちゃう。 「今は朝も早いけどさ、見通しが立ったら朝は元の時間に戻せると思うから」  耀くんがまた僕の肩に腕を回しながら言った。僕も耀くんの腰に手を回してシャツを掴む。 「耀くんのクラスって何やるの?」 「秘密。見に来るだろ?」  笑った顔がいたずらっ子みたいで、なんかかわいい。 「うん。じゃあ、ガマンして楽しみにしてるね」 「…なんか碧、お前さー…」  僕を見下ろす耀くんが、少し困ったように笑っている。 「なんでそんな可愛いの?」  またそんな恥ずかしいことを耳元で囁く。 「あー、なんで俺委員長とかやってんだろうなぁ。委員長じゃなかったら、もちょっと早く帰れたんだけど」  ため息をつく耀くんを見上げる。どんな表情も格好いい。 「仕方ないよ。だって耀くんだもん。委員長に選ばれちゃうよ」  自分たちの代表は、やっぱり格好いい方がいい。 「…耀くん、土日は?」  会える? 会えない? 「ごめん、土曜は準備で学校。日曜は家の用事」  会えない…  

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