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第89話

「あ! ちかちゃん来た来たー!」 「ごめーん。髪がね、キレイにできなくて」 「おけおけ、じゃ行くぞー」  土曜日の朝、駅前に集合して、耀くんとお姉ちゃんとさっちゃんの高校の文化祭に行く。今日のリーダーは依くんだ。 「敬也、碧見ててくれよ。花火の時みたいに逸れたらおれが耀と陽菜に殴られっからな」  依くんがガハハと笑いながら言った。敬也が「はーい」と返事をしている。 「だ、大丈夫だよ、依くんっ。あんなに人いないし」  心配のされ方が恥ずかしい。完全に子ども扱いだ。  みんなが「碧は前科があるからねー」とか言ってる。前科っていう言い方はどうかと思う。 「学校に入っちまえば、万が一逸れても耀が見つけるだろうから心配ないけどな」   光くんがそう言って、他のみんなも「そーだよねー」と言って笑っていた。  …みんなの僕と耀くんに対する認識って一体…。  そんなことを考えながら、みんなで電車に乗って耀くんたちの高校に向かった。  普段耀くんたちはこの風景を見ながら通学してるんだなーとか思いながら歩いた。商店街のあちこちには文化祭のポスターが貼られていて、高校の文化祭が街での大きなイベントの一つになっているんだと気付いた。  去年はそこまで考えてなかった。てゆーか、そんなに周りを見てもいなかった。耀くんの高校は、耀くんがいる時点で僕の志望校からは外れていた。  僕たちの高校の最寄駅よりもずっと賑わっている商店街を通り抜けて、人の波に乗って歩いて行く。この人たちみんなが文化祭に行くのかな。だとしたら結構混み合いそうだ。  華やかに飾られた門が見えてきた。校舎全体も様々な装飾が施され、テーマパークみたいになっている。  去年来た時もびっくりした。びっくりして、この準備とかするの、ちょっとやだなって思った。  門のところでパンフレットとかをもらって、みんなで「どこから行こうか」と覗き込んだ。 「陽菜んとこはカフェで、桜がお化け屋敷だっけ? で、耀のとこは何だ?」  昨日姉に訊いてみたけど、耀くんのクラスの出し物は教えてくれなかった。 「2年何組だっけ、耀ちゃんて」 「A組」 「なにこれ。読めない」 『Rube Goldberg machine』 「誰か調べて」 「メンドくせ。行った方が早いって。こっからにしよーぜ」  ということになって、一番最初に耀くんのクラスを見に行くことになった。  パンフレットの校内案内図を見ながら「後でここも見よーね」とか言いつつ、目的の耀くんのクラスへ向かった。 「あ! 耀ちゃん。おーい、見に来たよー」  華ちゃんが手を振って、入口にいた耀くんが振り返った。 「全員で来てくれたんだね。ていうか、ここ一番に来た? 3階なのに」  耀くんが笑いながらそう言った。 「谷崎、それ全員友達? ちょっと紹介して」  耀くんのクラスメイトが話しかけてくる。たぶんお目当てはちかちゃんと萌ちゃんだ。やっぱり可愛い制服は強い。 「あ! ねぇ、君、水瀬さんの弟でしょ。ちょっと! 写真よりかわいー!」  僕は突然横から女子生徒に声をかけられてびっくりした。  返事もできないでいると、耀くんが僕の肩に手をかけた。 「そうだけど、この子人見知りだからいきなり声かけないであげて」  そう言って僕を彼女から遠ざけた。 「あと、勝手に写真撮らないでね。他の友達にも言っといてもらえる?」 「え、あー、うん。分かった、言っとく」  彼女は不承不承という顔で耀くんを見上げ、そして僕をちらりと見て踵を返した。  耀くんは腕時計を見て「あと少し待ってて」と言った。

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