90 / 110

第90話

 クラスの入口に『上映時間』と書いた紙が貼ってあった。 「でさ、耀。これ何て読むの?」  光くんがカラフルな色画用紙を切って飾られた『Rube Goldberg machine』の文字を指差して訊いた。 「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン。あれだよ、小さい頃テレビで観た、身の回りの物で作るからくり装置」 「あー! え? もっと可愛い名前だっただろ、あれ。えっと」  啓吾が軽快なメロディのタイトルコールを歌った。 「そう、それを英語で表したのがコレ」  そう言って耀くんが笑う。すごい楽しそうだし、すごい格好いい。 「ほんの5分の動画なんだけど予想通り大変でさ」  そんな話をしてる間も周りに人が増えていく。さっき耀くんに話しかけてた男子生徒が、ちかちゃんと萌ちゃんに話しかけてて、でも耀くんは別にそれを止めはしなかった。  5分間の上映時間が終わるとドアが開けられた。教室の中からは拍手が聞こえてきていた。   中から出てきた係の男子生徒が、 「次の上映は10分後でーす」  と廊下に向かって大声で言っていた。 「じゃ、みんな見てって」  耀くんがそう言って、どうぞとドアの方に手を伸ばした。    前の黒板の所にスクリーンが下りていて、『Rube Goldberg machine』というタイトルが映し出されている。教室の後方3分の1くらいの所でパーテーションで仕切られてて、一部分は出入口になっているのか、暖簾がかかっていた。  バックヤードなのかな。  教室の縁に沿って机が並べられていて、からくりの装置が部分部分で置かれている。  スクリーンを見やすくするためか、ベランダ側のカーテンは全部閉まっていた。 「ねぇねぇ耀くん、これ触ってもいいの?」  ちかちゃんがその装置を指差して、耀くんの腕を引きながら言う。さっき声をかけてた彼は「やっぱそっちか」みたいな顔をしてそれを見ていた。 「ん? うん、いいよ。たいてい成功する長さで切ってあるから」 「てことはこの並んでるの全部繋げたら5分間分、ってこと?」 「そう。繋げると途端に成功率が下がるから、何回撮り直したか分かんないよ」  な、と耀くんはそこにいたクラスメイトに話しかけた。そうそう、とその彼は言っていた。  学校で、僕の全く知らないクラスメイトたちと接している耀くんは、うちに来てる時とも、僕と2人でいる時とも違っていて、不思議な感じがする。 「碧は小さい頃、あの番組好きだったよね」  ぼんやりとハードカバーの本を使った装置を見ていると、耀くんが話しかけてくれた。 「うん。でも5分って長いよね」 「長い。長かった。途中かなり挫けかけた」 「でも成功したんだ」  諦めないの、すごいな 「俺、諦めが悪いからね」  耀くんが意味深な笑みを僕に向ける。 「はーい。では3回目の上映を始めたいと思いまーす。みなさんスクリーンの前の椅子にご着席くださーい」  係の生徒の声で、僕たちは各々席に着いた。  楽しんでもらえるといいけど、と言い残して耀くんは廊下に出ていった。廊下での呼び込みの係なんだろうなと思った。  5分間の動画はすごく面白かった。先に見ていた装置たちが「こんなふうに繋ぐんだ」というような仕上がりになっていて、いい意味で予想を裏切られたりして楽しかった。  転がっていたボールが無事ゴールした時はみんなから自然と拍手が湧き起こった。 「面白かったー、なぁ」 「うん。なんかね、頭いい人たちが作ってるなーって感じ」 「あはは、確かに」  みんなで感想を言い合ってると耀くんが入ってきた。 「どう? 楽しんでもらえた?」  うん、と全員が頷いて、耀くんは良かった、と笑った。 「耀、お前いつまでここにいなきゃなんないの?」  依くんがパンフレットを開きながら訊いた。 「10時まで。その後も呼ばれたら来ないといけないし、呼ばれなくてもちょいちょい見には来るけど?」 「じゃ、一応自由なんだな。なら碧は置いてくから。そいつ人混みで逸れるから耀が連れてて。おれ責任持てねぇし」  依くんはそう言って「次行くぞー」とみんなに声をかけた。  ちかちゃんが残りたそうに振り返ったけど、萌ちゃんが腕を組んだから一緒に教室を出て行った。

ともだちにシェアしよう!