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第93話
「そういえば、さっちゃんてどこにいるのかな。お化け役だったら会えないね」
「確か午前中は案内って言ってたと思うけど…」
耀くんに連れられて辿り着いた、さっちゃんのクラスの前だけ暗幕が貼ってあって暗かった。廊下に飾りとして立てかけられた卒塔婆がやけにリアルだ。
なんか、想像してた10倍は怖そうなんだけど…。
そして受付には白い着物の髪の長い人…が座っている。
こわい
その絶妙なボサボサ具合の髪の間から、青白い顔がちらりと僕たちを見上げて、あ、と開けた口の中がやけに赤くてまた怖い。
びくっとして耀くんのシャツを掴んだ。
「碧、耀ちゃん、来てくれたんだー。ありがとね」
「桜、口ん中…」
「さっちゃん…こわいんだけど…」
「ああ、これ? イチゴ味のかき氷シロップ、原液で舐めたの。真っ赤でしょ。すっごい甘いよ」
さっちゃんが真っ赤な舌をぺろっと出した。
「青とか緑もいいかもな」
「それはね、カッパとかゾンビの色」
ああ、いるんだ、中にゾンビが…。
その時中からすごい悲鳴が聞こえて、出口の暖簾がバサッと揺れて人が飛び出してきた。思わず耀くんにしがみつく。
暖簾の間から追いかけるように開かれた青白い手が覗いて、スッと引っ込んだ。
…こわい
「さ、さっちゃん…。ここ、結構こわい…?」
「んー。私ホラー好きだからなんとも言えないけど、泣きながら出てきた子もいたから怖いのかも」
泣くほど?! てゆーかさっちゃんホラー好きなんだっけ。
僕は怖いの苦手なんだけど…。
「桜のクラス、美術部員が何人かいたよな。だからこんなクオリティ高いの?」
「そうそう。面白がっちゃってね。碧、そんな顔しなくても大丈夫。耀ちゃんがいるじゃない。一緒に行ってらっしゃい」
青白い幽霊メイクのさっちゃんが、にやりと笑って同じく青白い手で僕と耀くんの腕を掴んで中に引き込んだ。
真っ暗!!
「よ、耀くんっっ」
「碧、手」
微かな青い光を頼りに耀くんに手を伸ばす。その手を大きな手で掴んでくれて、少しだけ安心する。
順路を示す矢印だけが、ぼぅっと浮かび上がる。矢印に従って耀くんにくっついて歩くけど、まだ何もないのにこわい。心臓がドクドクいってる。
角の向こう、少し明るい。赤い光。怪しい音楽。
「ひゃっ!」
曲がった途端、ぶわっと風をかけられて一瞬目を背けた隙に、
「わっっ!!」
目の前にドラキュラ伯爵が現れて、口の端から血を流して笑っていた。
こわいよ、さっちゃんっ
手を繋ぐだけじゃ無理。耀くんの腕を抱き込んで、しっかりとくっついた。
「碧、大丈夫?」
「だ、だいじょぶ、じゃないかも…」
耀くんが、頑張れ、と頭を撫でてくれた。でもこわい。
こわいから前に進みたくない。でも進まないと出られない。
次の角からは緑色の光が漏れている。壁には廃墟っぽい汚れた窓がある。たぶん絵だけど、暗いしすごいリアル。こわい。
耀くんの腕に縋り付いて、半ば引き摺られるように歩いている。
「碧、曲がるよ? いい?」
「…ううっ、よくないけどいい…っ」
耀くんがまた頭を撫でてくれて、「行くよ」と言った。
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