97 / 110

第97話

ーーそのままゆっくり進んで、前の掃き出し窓からベランダに出て  え、と思ってカーテンの引かれた窓に目を向けると、目の前のカーテンの隙間から耀くんが覗いていた。  人差し指を唇に当てる、静かに、のジェスチャー。  ほんの少し頷いて返事をする。  装置を順番に見てるっぽい動きをしながら、徐々に前に移動して、素早くカーテンの裏に潜った。鍵はかかってなかったから、細く開けてベランダに滑り出ると耀くんが待っていてくれた。 耀くんは静かに掃き出し窓を閉めると、僕の手を引いて後ろの掃き出し窓に向かった。そしてその窓を静かに開けて、僕を先に中に入れてそれから耀くんも入ってきた。  バックヤードには、最初に依くんたちと一緒にこの教室に来た時に「次の上映は10分後でーす」と言っていた彼もいた。    パーテーションの向こう側では、まだ彼女たちが耀くんの話をしている。 「後は誤魔化しとくから、その子連れてそこの出入口からこっそり出ろよ、谷崎。あいつらしばらくいると思うし」 「そうさせてもらう。ごめんな、サンキュ、真木(まき)」  そう言って、彼に手を合わせた耀くんは、僕の手を引いて後ろの出入口からするりと出た。そして僕の肩を押しながら足早に教室を離れた。  階段まで来て、上?下?と迷っているところにスマホが震えてメッセージがきた。 「お、依人だ。あいつらどこ回ったんだ?」 ーー昼飯、色々買って集まって食わない? 「てゆーか、まだ全員一緒にいるのかな、依くんたち」  僕の疑問を耀くんが素早くメッセージに打ち込むと、すぐに返信がきた。 ーー光輝と華が2人で別行動してて、他はみんな一緒。  そうなんだー。へー。  と思っていると、さっちゃんからメッセージ。 ーー私、幽霊のまんま行っていい?  あ、あのまんまなんだ。  僕は「OK」のスタンプを送った。耀くんも「OK」とメッセージを送ってる。みんなからも次々と「OK」や「いいよ」が届いて、さっちゃんから「ありがとう」のカエルがお辞儀をしているスタンプが届いた。  姉からは「ごめんあたしむり」というほんとにムリっぽいメッセージがきていた。  カフェだしね。お昼、忙しいよね。敬也は残念がってるだろうなあ。 ーーじゃ、屋上が開放されてるから屋上に集まろうか。  と耀くんがメッセージを送って、みんなからは「賛成」の色んなスタンプが届いた。 「何買って行こうか、碧」  そう言われて、パンフレットを開いた。 「色々あるね。カレー、焼きそば、たこ焼き、クレープ、ドーナツ、チュロス、フライドポテト…。耀くん、昨日何食べたの?」 「カレー。美味かったよ。毎年サッカー部がやってるんだよね、なぜか」 「去年僕も食べたよね。美味しかった」  そんな話をしながら、他のみんなが買いそうなものを予想しつつ、たこ焼きとワッフルと唐揚げと、飲み物のペットボトルを買って屋上に向かった。5階建の屋上は階段がキツい。 「耀くんしんどい」 「もうちょいだから頑張れ」  耀くんが荷物を全部持ってくれてるのに僕の方がへばってる。  励まされながらよたよたと階段を昇って、屋上に出た。  空が近い… 「やっぱあんまり人いないな」  ここまで来るのしんどいからなー、と耀くんが笑いながら言った。 「ちかちゃんとか絶対文句言うよね」 「言うな。でも空いてるから許してくれるだろ」 「そうだね。開放感あって気持ちいいし」  うーん、と伸びをする。誰の目もないっていいな。  少しすると依くんたちが来て、やっぱりちかちゃんが「疲れたー」と文句を言っていた。  とりあえず集まったメンツで点在していたベンチを影に運んで、さっちゃんと光くんと華ちゃんを待った。 「陽菜のクラス行った? なにげに可愛いメイドくんがいたよね」 「え、強そうなメイドさんしか見てないよ。おいしくなぁれしてた」 「ちょっとそれは見たかったなー」 「陽菜の執事、カッコ良かったよな、敬也」 「え、あ…うん。そうっすね」  敬也、カフェではお姉ちゃんに会えたんだ。よかった。  座って喋っていると光くんと華ちゃんが来て、最後に白装束のさっちゃんが綿飴を持ってやって来た。

ともだちにシェアしよう!