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第97話
ーーそのままゆっくり進んで、前の掃き出し窓からベランダに出て
え、と思ってカーテンの引かれた窓に目を向けると、目の前のカーテンの隙間から耀くんが覗いていた。
人差し指を唇に当てる、静かに、のジェスチャー。
ほんの少し頷いて返事をする。
装置を順番に見てるっぽい動きをしながら、徐々に前に移動して、素早くカーテンの裏に潜った。鍵はかかってなかったから、細く開けてベランダに滑り出ると耀くんが待っていてくれた。
耀くんは静かに掃き出し窓を閉めると、僕の手を引いて後ろの掃き出し窓に向かった。そしてその窓を静かに開けて、僕を先に中に入れてそれから耀くんも入ってきた。
バックヤードには、最初に依くんたちと一緒にこの教室に来た時に「次の上映は10分後でーす」と言っていた彼もいた。
パーテーションの向こう側では、まだ彼女たちが耀くんの話をしている。
「後は誤魔化しとくから、その子連れてそこの出入口からこっそり出ろよ、谷崎。あいつらしばらくいると思うし」
「そうさせてもらう。ごめんな、サンキュ、真木 」
そう言って、彼に手を合わせた耀くんは、僕の手を引いて後ろの出入口からするりと出た。そして僕の肩を押しながら足早に教室を離れた。
階段まで来て、上?下?と迷っているところにスマホが震えてメッセージがきた。
「お、依人だ。あいつらどこ回ったんだ?」
ーー昼飯、色々買って集まって食わない?
「てゆーか、まだ全員一緒にいるのかな、依くんたち」
僕の疑問を耀くんが素早くメッセージに打ち込むと、すぐに返信がきた。
ーー光輝と華が2人で別行動してて、他はみんな一緒。
そうなんだー。へー。
と思っていると、さっちゃんからメッセージ。
ーー私、幽霊のまんま行っていい?
あ、あのまんまなんだ。
僕は「OK」のスタンプを送った。耀くんも「OK」とメッセージを送ってる。みんなからも次々と「OK」や「いいよ」が届いて、さっちゃんから「ありがとう」のカエルがお辞儀をしているスタンプが届いた。
姉からは「ごめんあたしむり」というほんとにムリっぽいメッセージがきていた。
カフェだしね。お昼、忙しいよね。敬也は残念がってるだろうなあ。
ーーじゃ、屋上が開放されてるから屋上に集まろうか。
と耀くんがメッセージを送って、みんなからは「賛成」の色んなスタンプが届いた。
「何買って行こうか、碧」
そう言われて、パンフレットを開いた。
「色々あるね。カレー、焼きそば、たこ焼き、クレープ、ドーナツ、チュロス、フライドポテト…。耀くん、昨日何食べたの?」
「カレー。美味かったよ。毎年サッカー部がやってるんだよね、なぜか」
「去年僕も食べたよね。美味しかった」
そんな話をしながら、他のみんなが買いそうなものを予想しつつ、たこ焼きとワッフルと唐揚げと、飲み物のペットボトルを買って屋上に向かった。5階建の屋上は階段がキツい。
「耀くんしんどい」
「もうちょいだから頑張れ」
耀くんが荷物を全部持ってくれてるのに僕の方がへばってる。
励まされながらよたよたと階段を昇って、屋上に出た。
空が近い…
「やっぱあんまり人いないな」
ここまで来るのしんどいからなー、と耀くんが笑いながら言った。
「ちかちゃんとか絶対文句言うよね」
「言うな。でも空いてるから許してくれるだろ」
「そうだね。開放感あって気持ちいいし」
うーん、と伸びをする。誰の目もないっていいな。
少しすると依くんたちが来て、やっぱりちかちゃんが「疲れたー」と文句を言っていた。
とりあえず集まったメンツで点在していたベンチを影に運んで、さっちゃんと光くんと華ちゃんを待った。
「陽菜のクラス行った? なにげに可愛いメイドくんがいたよね」
「え、強そうなメイドさんしか見てないよ。おいしくなぁれしてた」
「ちょっとそれは見たかったなー」
「陽菜の執事、カッコ良かったよな、敬也」
「え、あ…うん。そうっすね」
敬也、カフェではお姉ちゃんに会えたんだ。よかった。
座って喋っていると光くんと華ちゃんが来て、最後に白装束のさっちゃんが綿飴を持ってやって来た。
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