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第98話

「わたあめ持ってる幽霊はシュールだね」 「でしょ?」  さっちゃんはそう言って笑うと「食べる?」とみんなに綿飴を差し出して、みんなは「食べるー」と手を出した。 「やっぱちかちゃんチュロス買ったんだね」 「啓吾、カレーと焼きそば、途中で交換しねぇ?」 「なにそれ? ベビーカステラ?」 「そうそう、串に刺してチョコかけてあるの。いる?」 「いるいるー」  そんな話をしながら色んなものを食べた。 「色々ちょっとずつ食べられて楽しいね」  と萌ちゃんが笑っていた。 「女子は量が食えねぇもんな。集まろうって言ったおれ、天才じゃね?」  依くんがそう言って胸を張って、みんなが「天才!!」「サイコー!!」と拍手をした。 「それにしても桜んとこのお化け屋敷は怖かったよなぁ」  と光くんが言った。華ちゃんも頷いてる。 「ちかと萌ちゃん、途中から目ぇつぶって敬ちゃんと啓ちゃんに連れてってもらっちゃった」 「2人とも半泣きだったもんなー」  と啓吾が笑っている。僕は笑えない。 「お化け屋敷、耀ちゃんが碧抱っこして出てきたって噂になってたよ」 「え、えりちゃん、それほんと?」  ほんとほんとーとえりちゃんが笑いながら言う。 「まあ、あれだけ人が集まってたらねぇ。おかげでうちは大盛況だったけど」  と、さっちゃんが言いながら、耀くんの方をちらりと見た。  僕は頬が赤くなってるのを感じてるのに、耀くんは涼しい顔をしてフライドポテトを齧っていた。 「午後どうする? みんなで回る?」 「そうしよ。帰る時ラクだし。ちか、耀くんとも回りたい」  ちかちゃんが僕をちらっと見た。 「じゃ、みんなで回ろっかー。碧、逸れんなよー」 「だ、大丈夫だよ、依くんっ」  あははーとみんなが笑ってて、耀くんが僕の頭をよしよしと撫でた。  ご飯を終えて、さっちゃんは「私、幽霊やってくるから」とクラスに戻っていった。  ちょうど時間が合ったから軽音部のステージを見て、それから体育館でやってる縁日を回った。光くんと啓吾がヨーヨーをいっぱい釣って、耀くんは射的で全弾当てて「谷崎くんやめてよー」って言われながら賞品のお菓子を貰ってた。僕はピーナッツがチョコでコーティングされたロングセラーのお菓子を貰って、ちかちゃんと萌ちゃんはキャラメルを貰ってた。残りの、これまたロングセラーのヨーグルト味とレモン味のラムネは、依くんがさっさと開けて他のみんなにテキトーに配って、自分もぷちっと取り出して口に放り込んだ。  途中で耀くんのクラスに寄って、耀くんはまたバックヤードに入って、でも今回はみんながいるからさっきみたいにビクビクせずに済んだ。  耀くんが動くとやっぱり人目を引くんだけど、人数が多いと少しは分散されるから、大人数で回ってよかったなと思った。  2人で、も、すごく楽しかったけど。  でも明日は一日中2人だから。  期待感で胸が鳴る。  大好きな人と一日中2人っきりでいられるなんて、そんな幸せなこと他にないんじゃないかな。 「お待たせ。あと30分だけどどこ行く?」 「この迷路行ってみたい。5階だけど」 「あたしコーヒーカップ乗りたい」 「OK、急ごうか」  みんなちょっと速足になって歩き出した。耀くんは僕の肩を抱いて、反対の腕はちかちゃんに組まれてる。途中すれ違った男子生徒に「なに? 谷崎、両手に花じゃん」て言われてた。僕は花でいいのかな。  時間ギリギリまで遊んで、帰る僕たちを門まで耀くんが送ってくれた。 「この後、片付けと打ち上げがあるから」  と言った耀くんが、僕の耳元で「また明日ね」と囁いた。 「また2人で内緒話してるー」  とちかちゃんが不満気に声を上げたけど、その声がひどく遠くに聞こえた。  明日… 「依人、碧をよろしくな」 「おー。てか敬也、お前が碧見とけ」  またオレっすか、と敬也が言って、そうお前、と依くんが笑った。 「じゃ、敬也よろしくな。みんな来てくれてありがとう。気を付けて帰って」  そう言って耀くんが手を振った。 「やっぱさー、偏差値高い学校ってこういう行事の自由度高いよな」 「だな」 「楽しかったねー。耀くんとこの動画もすごい面白かったし」 「ねー」  そんな話をしながら帰路についた。ごくごく僅かにオレンジ色の混ざった光が降り注いでいる。  この夏の間にすっかり変わってしまった僕は、明日また耀くんに作り変えられるんだろう。  あの大きな手で。  僕はみんなが喋ってるのを聞いてるふりをしていたけれど、ほんとはほとんど耳に入ってきてはいなかった。

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