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第99話

『明日は両親が出掛けたら連絡して迎えに行くよ』  昨夜の電話で、耀くんにそう言われた。  1回目に図書館に行った前の日も、その次も、よく眠れなかった。耀くん家に行く日はいつも寝不足だ。でも仕方ない。  そして今日もやっぱり寝不足。  昨夜は文化祭の打ち上げをして帰ってきた姉のテンションが下がらなくて、延々と文化祭の準備や本番の話をされて、そして耀くんと僕の噂話のことを聞かされた。 「あんたの弟、谷崎くんとどういう関係なの?って訊かれたから、見たまんまよって応えておいたわ。メンドくさいし」 「メンドくさいって…」  姉はゼロカロリーの炭酸飲料をぐいっと飲んだ。ジュースで酔っ払ってるみたいだ。 「でも終わりの方で耀ちゃん、ちかちゃんに腕組まれてたんでしょ? それでなんか、やっぱ谷崎くんはモテるからー、みたいな話の流れになって、で、とりあえず終わったけど、その話は」  休み明けにどうなってるかは知らなーい、と姉が舌を出しながら言った。 「前にも言ったけど、耀ちゃんすっごいモテるからね。かわすのが面倒になったのかもしれないわね。もうだってあれ、友達の距離感じゃなかったもん。べたべたしちゃってさー」 「べたべたなんて…」 「してましたー。さっちゃんとこでも派手にやってたらしいじゃない。わざとなんじゃないかなぁ、やっぱり」  そう言いながら姉はポテチを齧った。今日は夜に食べてもいいことにしたらしい。 「でもまあ、ほんとに耀ちゃんが幸せそうだったから、まあいいかなーって思った。あたしはね」  なんかしんみりとお姉ちゃんが言った。でも。 「ただね、逆効果だったんじゃないかって気もするのよね。碧が一番分かってると思うけど、碧を見てる耀ちゃんはすっごい格好いいの。だからね、今日の耀ちゃんはいつもの何倍も格好よかった。余計に増えちゃったんじゃないかなぁ、耀ちゃんを好きな子」  ちなみにあんたもめちゃくちゃ可愛かったわよ、と言われて俯いた。 「わざとだったとしても、単に碧といるのが楽しかっただけだとしても、耀ちゃんがそれでいいと思ってやってたことだし、あんたは学校も違うからあんまり気にしなくていいと思うわよ。あ、でもどうなの? 碧の高校に耀ちゃんのこと知ってる人いるの?」 「いるよ、そりゃ。うちの中学から行ってる人も結構いるし」 「そっかー。じゃ碧も何か言われちゃうのかな、文化祭のこと。まあでも依ちゃんとかいるし大丈夫か」  敬也もいるもんね、と姉が笑った。僕は敬也の名前が姉の口から出たことが、なんか嬉しかった。  姉が、やっと気が済んだように部屋を出ていって、耀くんと少し電話をして、寝ようとしたけどあんまり眠れなかった。やっぱり朝は早く目が覚めて、しばらくベッドの中でゴロゴロした。  何時になったら会えるんだろう。  さっきからゆっくり進んでいる時計の針は、今日も耀くんと一緒にいる時だけ猛スピードで回るんだろう。  昨日も1日があっという間だった。  ドアが開く音と、誰かが廊下を歩く音がする。  この足音はお母さんだな。  僕はもうちょっとしたら起きよう。  もう、ドキドキしてる  早く耀くんに会いたい    会って、触れて、キスがしたい  

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