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初めての幸せな発情期 *
ノアはいつのまにか泣き疲れて眠っていた。泣いたせいで瞼が重い。
目を開けるとノアは一階の暖炉の前にいた。ずっと真っ暗な闇の中に閉じ込められていたので暖炉の炎に目がチカチカした。周囲の明かりは消えていて、薪の燃えるかすかな音が時折聞こえる。
顔を上げるとレイムは手元の本からノアへ視線を向けた。
ノアはレイムの膝の上にいた。毛布代わりかもしれないけど気持ちが少し浮上する。
悪いことをして叱られた。でも、まだそばに置いてくれている。
「ノア」
静かに、語りかけるように名前を呼ばれて返事をした。
「ごめんなさい」
ノアの謝罪の言葉の返事はため息だった。
まだノアは猫の姿のままだった。けれど言葉は通じていた。レイムはローテーブルの上に本を置くと、ノアの上半身を持ち上げ顔を合わせた。
「きちんと反省したか」
「はい」
「何が悪かったか分かっているのか」
「危ないって、言われていたのに、地下の部屋に一人で入ったから」
ノアが答えるとレイムは「よろしい」と言ってノアを再び膝の上に置いた。
「貴様は、私の弟子になりたいと言ったな」
レイムは淡々と話を続ける。
「次に私の言いつけを破ったら、追い出すから覚えておくように」
「本当に、ごめんなさい」
「私も悪かった」
「え」
「私は、自分の師匠にされた仕置きと同じことをお前にした」
「同じ……お仕置き」
「あぁ。けれど私とお前は違う。やり方を間違えた」
レイムはノアの顔に手を伸ばし手で触れた。
「反省させたかっただけで、こんなに泣かせるつもりはなかった」
ぐしゃぐしゃに涙で濡れた目元の毛を親指で拭われた。悪いことをしたのはノアなのに、レイムの方が悪いことをしたみたいに気落ちした声だった。ノアは慌ててレイムの胸に乗り上げ目を合わせる。
「俺、ちゃんと反省、したから」
「そう」
「最初は暗闇、すごく怖かったけど、でも……レイムさんの常闇の魔法? は、なんか温かかったし、だから、大丈夫だから」
レイムは胸に乗り上げたノアと視線が合うように抱き上げてくれた。
「どうして、一人で地下へ入った。ダメと分かっていても入ってしまうほど、バカ猫なら私も考えなければいけない」
「考えるって」
「お前が入れないように地下の入り口に魔法をかけようか、他人の侵入を拒絶する魔法は、高度な魔法だがな」
テーブルを片付けるとか物を動かすみたいな簡単なものじゃないのはノアにも想像出来た。
「そんなすごい魔法を使っていいの?」
ノアが首を傾げて尋ねるとレイムは呆れたような声で答えた。
「お前が死ぬ可能性があるなら、別に魔法規約違反にはならないだろう。裁判にかけられたとして必要十分だと判定される」
「そんな間抜けなことで俺、魔法裁判にかけられたくない」
ノアが反論したらレイムに小さく笑われた。なんだか少しだけ楽しそうに見えた。
「なら言われたことを忘れないように気を付けることだ」
「覚えてたけど、俺、どうしても我慢出来なかったんだ」
ノアが淡々と理由を話し始めるとレイムはノアの声に耳を傾けてくれた。話を聞いてくれている。それだけで体が軽くなった気がした。ずっと体の中心に重石を置かれているような気分が続いていた。
「俺、焦ってて」
「焦る?」
「早く、魔法使いにならないとって」
「何故、そんなに急ぐ、私はお前を追い出さないと言った気がするが?」
「怖くて」
「怖い?」
ずっと置いてくれる保証なんて、どこにもない。
だから証明できるなにかが早く欲しかった。
「レイムさんが、いつまで俺の勉強、待ってくれるか分からないし」
「私が、短気に見えたか?」
「そうじゃなくて、……そう、じゃないけど。どれだけ、頑張ったらいいか分からないし」
そばに置いてくれて嬉しかった。だからこそレイムの期待に応えたかった。けれど、どう努力すればレイムが認めてくれるのか分からなくて不安だった。
「なるほど、それは改善しよう。前にいた弟子は、お前ほど熱心に本を読まなかった」
「そう、なんだ」
「私は、お前が、ここの部屋にある本を、来年の春に読み終わると考えていた」
「え、そう、なの」
「私は口数が多い方じゃない。だから、お前が話しかけるのは好きにすればいい。それで怒ったりはしない」
「うん。分かった」
初めての宝物をどうやったら、ずっとこのまま持ち続けられるのか、そればっかり考えていた。絶対に失いたくなかった。
「貴様は、勉強の加減が分からずに、どんどん先へ進もうとした、と」
「あと、俺、最近、変だったんだ」
「やっぱり具合が悪かったのか?」
レイムはノアを胸に抱っこしてくれた。
「そうじゃなくて」
不思議な夜だった。
レイムがノアの望んだ通りに優しくしてくれる。胸に抱いたり、背中を撫でてくれる。ずっとこんなふうにされたかった気がした。猫になるのは嫌だった。自分の人としての尊厳を強制的に奪われている気がした。
けれど、今夜は少しも嫌な気持ちにならない。もっと、もっと甘えたくなる。この姿で、優しくされたい。触れられたい。
なんだか段々と変な気分になっていた。
「俺、レイムさんに、構って欲しくて」
「構う、とは」
同じ言葉をおうむ返しされた。
「その……頭、撫でたり、抱っこされたり」
ノアが望むとレイムはノアの頭を大きな手で優しく撫でてくれる。気持ち良くて頬をレイムの手に擦り付けてしまった。そんなノアの無防備な甘えたをレイムは何も言わずに受け入れてくれる。
「こうされると気持ちいいのか?」
「うん。気持ちいい。ねぇ、もっと」
きっと、今のノアのオレンジの瞳は、情けなく蕩けている。悲しい気持ちでいっぱいだったのにレイムに抱っこされている間に心が落ち着いてしまった。
この状態になると人間に戻るのは、すぐだと思った。
「あ、戻った」
ノアの予想通り、ポンと小さな音がしてノアの体は変化した。
「私が撫でると、元に戻るのか?」
レイムは元通りになったノアを見つめて苦笑する。紫の瞳は優しく微笑んでいた。
「レイム……さん」
ノアは、焦った声を上げた。
「なんだ?」
「やっぱり変……だ、俺」
人間の姿には戻れた。
けれど、いつもと違う。
ノアの獣の部分が残ったままになっていた。
頭には猫の耳。お尻から尻尾が生えたままだ。この状態は、うんと嬉しいときだ。
でも、それ以外のときもある。
――発情期。
ハッとなった。生まれたままの肌色をレイムに晒している。裸を見られるのは初めてじゃない。けれど羞恥に体が震えた。
普通の状態じゃなかったから。
「ッ、レイム、さん。ッ、ダメ、俺」
ノアの焦りに反してレイムは落ち着いていた。膝の上に座っているノアを、レイムは静かに見下ろしている。
興奮で緩く勃ち上がっている下腹部も見えているはずだ。
「なんだ。まだ撫でて欲しいのか? 構うだったか?」
「も、もう、大丈夫! 十分だから」
ノアの声が上ずる。
「知らなかった。獣人は構わないと具合が悪くなるんだな。それは猫だけか?」
レイムが猫の耳に触れた。鳩尾のあたりからぐずぐずとした熱が上がってくる。自分の気持ちが全部台無しになる。その瞬間が訪れる恐怖があった。
醜い自分を見られたくなかった。
「ッ……んっ」
体を硬くして快感を逃そうと意識を集中する。でもレイムのくれる刺激を体が貪欲に拾ってしまう。欲しくてたまらない。もっと、と上体をくねらせて抱きつきたい衝動を必死で我慢した。醜い欲が抑えられない。
「だめ……だから」
「ノア、お前が、どう足掻いたところで、お前は人間とは違う生き物なんだよ」
「れ、レイムさん。お願い、俺に魔法、かけて、元に戻して! このままだと」
「それは、出来ない」
「どうして、なんで!」
ノアはレイムに縋りついた。けれど静かに首を横に振られる。
「獣人に生まれたお前の本能を魔法で消しても、一時的に楽になるだけだろう」
レイムがたくさんの本をノアに読ませて伝えたかったこと。
――魔法は万能じゃない。抗えば抗うほど、体に反動がある。
良い面と悪い面に目を向ける。現実から目を逸らしてはいけない。
薬も、魔法もそれは変わらない。
ノアだって本を読んで頭では理解していた。でも望まずにはいられなかった。
――寂しい、愛されたい、愛したい。
ずっと、ずっと、願い続けていた。それが魔法で叶うなら願わずにはいられなかった。
「それでも、いいから、お願い」
今この苦しみから解放されるなら、それで構わないと思った。
「続ければ、いつか体の具合が悪くなる。死んでしまうかもしれない」
「分かってるよ。死んだっていい、それで誰にも嫌われないで、好きになってもらえるなら」
ノアはレイムの膝の上から降りて近くにあったローブを手で掴む。それを背中に羽織り一人外へ出ていこうとした。幸いここは常闇の森で、小さな頃、親に何度も放り込まれた場所だった。
体の疼きがなくなるまで、一人でいればいい。
こんな姿をレイムに見られたくなかった。まだ自分が自分でいられるうちに、レイムから離れようとした。
誰にも傷つけられない。誰も傷つけない。実家の暗い離れに閉じ込められるより、森の方が幾分かましだった。
森には優しい思い出があったから。
心細くても一人で耐えられた。
「どこへ行く気だ」
レイムに手首を掴まれて振り返る。
「森……発情期だから、治るまで。いつもやっていることだよ。治るまで一人でいる」
「そんな姿で死にたいのか」
レイムの家の中は暖かいけれど、外は冬の寒さ。裸同然の格好で出たら最悪死んでしまう。それでもよかった。
心配そうな紫の瞳に胸が締め付けられる。そうやってノアに関わってくれて、弟子候補にして家に置いてくれて。これ以上なんて望めなかった。
「レイムさんに、嫌われるくらいなら、死んだ方がいいよ、やだよ、見られたくないよ」
ノアは、ぼろぼろと涙をこぼした。
「飼い主は、猫の面倒を見るものだ」
突然レイムに抱きしめられた。
「ッ、やっ」
レイムの温かい胸に抱き寄せられて、ふわりと薬草の甘い香りに誘われる。頭が欲しい物でいっぱいになってしまう。
誰彼構わず抱きついて、甘えて泣きたくなる。縋りつきたくなる。それが本能だから。
優しくして欲しい、愛して欲しい。けれど、ずっとノアの気持ちは満たされない。
「ッ、やっ、声、き、きかないで」
「何故」
「気持ち悪い、から」
「ただ、甘えたいだけだろう」
――ただ、寂しくて泣いていただけなのにね。
昔、魔法使いに言われた優しい声と重なって聞こえた。耳の奥へ響く。落ち着く甘い声だった。森の中で鳴いていたノアを抱っこしてくれて、頭を撫でてくれた。
ただ、それだけで落ち着いた。
「ここ最近、お前を上手く甘えさせてあげられなかった。ストレス過多で追い詰めた。だから変だったんだろう?」
外へ出ていこうとしたノアをレイムは引き戻して再びソファーに座らされる。レイムはその隣に徐に座った。レイムはノアが縋り付いて体を擦り付けてきても逃げないで座っていた。
好きにさせて膝の上に乗せてくれる。
「なんで、怒らないの、気持ち悪いって言わないの」
ぽろぽろと涙が次から次へと溢れてノアの手の甲に落ちた。
「どこに怒る必要がある」
レイムの目は真剣だった。
「大人の獣化や発情は、感情の不安定さが原因だ」
「ッ、ぅ、不安定って」
「人間社会で迫害され、追いつめられるほど、周期から外れた発情が起こる」
王都で暮らしている間、確かにノアはいつ起こるか分からない発情期に怯えていた。
「だから、もう受け入れろ。お前は獣人なんだ。そうやって生きるしかない」
最後通告のように冷たいレイムの声。けれど、ぐすぐすと泣きながら目の前のレイムに抱きついていた。ノアの本当の気持ちを無視して目の前のレイムに甘えてしまう。
違う、これはノアの本当の気持ちだった。
ノアはレイムに優しくされたい。
嫌われたくない、愛されたいって思っている。
獣人でいる限り、何一つ、人間と同じモノは、手に入らないと思っていた。
やらしい体を見ても、欲しいと鳴いてもレイムが逃げないで、真っ直ぐに目を見つめ返してくれる。
好きになった人に、好きだって伝えたい。
ノアは、レイムのことが好きだから。
だから、少しだけ諦められた。
「変だ、から」
「それが、お前の普通だ」
「レイムさんは、残酷だ、受け入れろなんて」
「甘えたい猫を好きにさせられないほど、甲斐性なしじゃないつもりだが」
「じゃあ、なんでッ」
ノアは言葉を詰まらせた。
「なんだ。言いたいことがあるなら言え」
レイムの温かい瞳に見つめられる。こわばった体の力が抜けていく。
「アリアさんと楽しそうに話してた、の、恋人、だから」
「恋人? アリアはフレッドの奥さんだが」
「ッ、ぁ」
猫の耳の後ろに触られる。気持ちよくて体がびくびくと素直に反応を返してしまう。
「だって、楽しそうにしてた」
「楽しそうにしてたつもりはないが、話しかけられたら答えるのは店主として当然だろう」
甘い刺激に後押しされるように言葉を継いでしまう。
「なんで、お菓子、アリアさんに、俺、レイムさんに買ってきて、レイムさんが喜んでくれる顔、見たくて、選んだのに」
自分でも何を言っているのか分からない。レイムに変な魔法でもかけられているのかもしれない。獣の本能のままレイムに擦り寄り甘えてしまう。恥ずかしいのに止められない。
レイムはノアの言葉を聞いて目を丸くして驚いていた。
レイムの長い指先で涙を拭われた。
「あの菓子は、お前の物だが? 私は甘い物は、あまり食べない」
「俺の……お菓子」
「そうだ」
「なん、で……」
「勉強を頑張ったら、褒美には、お菓子を与える物だと、私は師匠に教えられた」
「ッ、ぅうううう」
顔が真っ赤だ。嬉しくて。こんな幸せをノアは知らない。もらったことがない。
レイムのためのお菓子だと思って選んだ。それがノアへの贈り物だなんて気づきもしなかった。
「他に言いたいことは?」
ぷるぷると首を横に振った。こんな幸せな発情期は初めてだった。
暗闇の中、いつも一人で熱の波が終わるのを耐えていた。苦しくて、虚しくて。誰にも相手されない惨めな自分を自分で慰めていた。
けれど今日はレイムが、そばにいてくれる。甘えたいと鳴くノアのそばにいてくれる。
それだけでよかった。ひとりぼっちじゃない。拒絶されず獣人なら当たり前のことだと言ってくれて救われる。
レイムはノアを膝の上で優しく抱きしめて、話し相手になってくれている。心は満たされている。だから、もう苦しくない。
「ぁ、はぁ……ぁ、んっ!」
レイムの膝の上で荒く息を繰り返していたら、レイムが突然ノアの下腹に触れた。細い指先でトロトロと発情の証をこぼしているそこを弄ばれる。
「ッ、あ、だめ」
「苦しいことは、早く終わらせたいだろう」
「終わら、せるって」
「いつも自分でやっているだろう」
治るまで抱きしめてくれるだけでよかった。かといって自分でやっていたようにレイムの目の前で奔放に自慰にふけることも出来ない。
「ぁ、や、る、けど、今日は……」
「お前がやらないなら、私がしてやろう」
ノアはレイムの手から逃げるように、熱を持った身体をよじる。
「じっとしていろ、やりにくい」
「ぁ、だって、ぁああっ」
レイムが触れた途端に途切れることのない快感の波が襲ってくる。
「っやぁ、だ、めっ、俺の声、聞かないで」
気持ち悪い声だと言われた。その声で人を誘うように鳴いてしまう。
「私には、猫が鳴いているようにしか聞こえない」
「ぁ、あああっ、やっ、やっ」
レイムの白く綺麗な手がノアの出した粘液で汚れていく、それを見ていられなくてノアは自分の下腹へ手を伸ばした。レイムの手に自分の小さな手を重ねて熱から退かせようとする。けれど発情で体に力が入らないし、レイムの手はびくともしない。
「なんだ、良くないか」
「だって、気持ちいい、の、やだ」
「いいなら、されていろ」
「ッ、あ、レイムさんの手、汚したくないよ」
「ただの生理現象だろう。汚くない」
「やっああっ、あ」
「あぁ、それとも。後ろの方がいいか。もう覚えているのか? 獣人は、男でも子供が作れるらしいが」
トントンと指でどろどろに濡れた後孔に触れられた。
びっくりして獣の長い尻尾がぴんと立つ。
昔、病院で診てもらったときに医者にも言われた。獣人は男でも子供を作ることが出来る。番さえ見つけられたら、と。
「っ、こわ、い」
「そう。なら、はやく、こっちで気持ちよくなりなさい」
レイムはノアのお尻を抱え上げると、尻尾の付け根を弄びながら、ノアの熱棒を擦った。ノアはバランスを崩しそうになりレイムに抱きつく。
そんなことは初めてで、強烈な刺激に頭の芯がとろけてしまう。恥ずかしいのにソファーの上で両足を開いてレイムの刺激を受け入れてしまう。
「ッ、あっああああ」
レイムの手が上下に何度も動かされる。優しく擦られているうちに、ノアはついに極めてしまった。
「ッ、っああああ、ぁ……んっ……」
吐精したのに、まだ気持ちよさが波のように続いてた。レイムが背を撫でてくれる。
「気持ちよかったか」
「ッ、こんなの、はじ、めて、だよ」
ノアはレイムの胸に頭をすり寄せて快楽の余韻に浸ってしまう。
「セックスが? ずっと我慢してたのか」
「……誰か、襲わないようにって、俺、こういうとき、ずっと隔離されてたから」
「そう。――ノア、今後、発情は我慢しないように」
「が、我慢って、いつもは、こ、こんなのじゃなくて……今日は、特別、で」
「あぁ、言い変えよう。甘えたなのは、小出しにしなさい」
レイムはノアの頭の上に手を乗せた。
「小出しって」
「動物が飼い主に甘えるのは本能だから、好きにしなさい。私は困らない」
「こ、困らないって、でも」
「何事も溜めると良くない。それは人間も同じだから、お前は気にしなくていい」
「けど……俺」
「猫は日常的に甘えるのが仕事らしいな。なるほど、お前のことがよく分かったよ。獣人も、そう変わらないな」
ふとテーブルの上を見ると、猫の飼い方の本があった。それを指差して意地悪く笑われる。方向性はどうかと思うが、レイムは、レイムなりにノアという生き物を理解しようとしていたらしい。
「お、俺、猫じゃないよ」
じっとレイムの目を見つめ返す。
「私はノアを弟子にしたんだ。猫だとか、人間だとか関係ない。お前はお前だ」
「え、待って、今、レイムさん。え、俺のこと弟子に、してくれるの」
レイムは、ふっと笑った。
「……課題、良く頑張ったからな」
「ッ、レイムさん」
ノアはレイムに抱きついた。
「お前と違って私は遊んでばかりで、なかなか本を開かなかった。よく頑張りました」
レイムは遠い昔を思い出しているように見えた。
そんなレイムの姿を膝の上で見ているうちに、ノアは疲れから、いつの間にか眠っていた。
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