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魔法の杖

 本物の魔法使いの弟子になる日は、厳かな儀式があるのだと思っていた。  目が覚めたとき、ノアは枕元に魔法使いの杖を見つけた。杖を見た瞬間、昨日のレイムの言葉が本当だったと実感する。  ノアは、杖を手に取ると一階まで駆け降りた。途中何度も滑り落ちそうになった。 「レイムさん!」  朝食の支度をしていたレイムは調理台の前に立っていた。ノアが呼びかけるとレイムはゆっくりと振り返る。 「なんだ。朝から騒々しい」 「杖! これ、俺の!」 「あぁ」 「あ、ありがとう! 嬉しい」 「そう。よかったな」 「これで俺も、レイムさんみたいな魔法が使えるんだね」 「……そうだ」  想像したよりレイムの反応は薄かった。ノアが大喜びしているのに対してレイムは、どこか元気がないように見える。 (まぁ、別にレイムさんが喜ぶことでもない、か)  同じように大喜びして笑ってくれるレイムも変な気がして、その場は納得した。 「あの、さ。ところで昨日のこと、だけど」  ノアは、ためらいがちに口を開く。 「なんだ」  レイムはノアの顔を見る。 「もしかして、レイムさんも師匠に甘えて、たの」 「は?」  ノアを見下ろすレイムの目が据わっている。  いくら考えても昨日の出来事は普通じゃない。性的なことは抜きにしても、レイムは獣人のノアを受け入れ過ぎだ。  だからノアは、昔、レイムには彼をベタベタに甘やかしてくれる、人が居たんじゃないかと考えた。  文字通り猫っ可愛がりしてくれるような誰か。 「だって、やっぱり変だし。だから、レイムさんも師匠に、あんな感じで頭撫でてもらったり抱っこしてもらったり……」  心底馬鹿馬鹿しいみたいな冷めた目で見られた。 「馬鹿だな」  自分でも馬鹿なことを訊いたと気づいた。

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