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魔法使いは約束を忘れない *
地下から階段を上がりノアは慣れた動作でドアノブを開け、レイムの部屋に潜り込んだ。もし眠っていたら、そばで朝まで待っていようと思った。
人間の姿だと隣に寝るのは躊躇する。けど猫の姿なら戸惑いなんてない。
レイムのベッドに潜り込むと起きていたらしく、すかさず首根っこを掴まれた。
レイムはベッドから起き上がりノアと顔を合わせる。
「なんのつもりだ」
何から話せばいいのか分からない。
「こんなものまで作って」
左耳についている緑色の宝石に触れられる。
「貴様は、本当に、師匠の言いつけを守れない弟子のようだな。また折檻されたいのか」
「俺、レイムさんの使い魔になりたい」
「何を言ってる」
反応が芳しくない。ノアは続けた。
「だ、だから、俺、変身魔法使えるようになっても、王都に帰ったりしないし、魔法のためだけにレイムさんを利用とか、そんなこと絶対考えてないし……」
レイムは目を細めてノアを見る。
「と、とにかく、俺、レイムさんじゃないと、ダメなんだ」
「ほぉ、そのお前の告白と、私の使い魔になることになんの関係が?」
一生猫の姿でいる。それが償いのなるのか分からない。けれど、他にレイムに差し出せるものがない。ノアの後ろ足は、ぷらぷらと宙に浮いていた。沈黙が耐えられない。ノアが我慢できなくなって、後ろ足をピクピクさせると、レイムは膝の上にノアをいた。お互いが向き合う形になる。
「……れ、レイミーなんでしょ。レイムさんが」
レイムの眉がぴくりと動いた。
「俺が昔出会った魔法使いは、レイムさんのお師匠さまだった」
レイムはベッドのヘッドボード部分に背を預けてノアの言葉を聞いている。
「フレッドに聞いたのか」
「俺、ずっと、名前、エイミーだと思っていた」
「お前は本当に小さかったから。喋るのが下手だった」
レイムは目を細めて昔を懐かしむように小さく笑った。
「俺が寂しくて泣いたから、レイムさん師匠のところに帰れなかったんでしょう」
「いや。関係ないな」
「嘘だ!」
「嘘は言っていない」
レイムは淡々とノアの言葉を否定した。
「ごめんなさい。俺が、あの日遊んで欲しいなんて言わなかったら、レイムさんは、きっと」
レイムは大きなため息をついた。
「トーマが……。師匠が自分で決めたことだ。最後の日に一人で逝くことは」
「謝っても許されることじゃないけど。俺……」
否定するレイムの胸に前足を置いて顔を近づける。するとレイムはノアの頭の上に大きな手のひらを置いた。その重さでぺしょりとなってレイムの膝の上に逆戻りになった。
「人の話をちゃんと聞け。私は、違うと言っただろう」
「でも」
「――私は、ずっと人が嫌いだった。その上、自分を拾ってくれた師匠以外の人間を誰も信用していなかった」
「だから、それは俺のせいで」
「いいから、最後まで聞け」
ノアはレイムに指先で口を塞がれる。ノアのピンク色の鼻がぐいっと押された。魔法をかけられているのか口を開こうとしてもモゴモゴするだけで声にならない。
「師匠は、私のそういうところが自分の弟子として許せなかった。だから、私を死に目に遭わせなかった」
レイムはノアに静かに微笑みかけた。普段は無表情で取っ付きにくい。会話のキャッチボールはちゃんとしてくれないし、適当。
それが初めてレイムに出会ったときの印象だった。
けれど、それはレイムの、ほんの一部。ノアがたくさん話しかければ返事をしてくれるし、困ったり、慌てたり。不機嫌になったりもする。
ノアはレイムの新しい面に出会うたびに、もっとレイムの本当を知りたいと思った。
ノアはレイムに言われた通り大人しく言葉の続きを待った。
「生まれてすぐに捨てられて本当の親も知らない。処世術として必要なときだけ周囲と会話する小賢しい子供。それが私だった。師匠は私が他人に心を許していないと分かっていた」
口を塞がれていた指が離れていく。声を出してもいいらしい。
「でも」
だからこそレイムは、あの日、唯一信じていた師匠に突き放されて悲しかったはずだ。
「師匠は、最後にお前と遊ぶように、と私に課題を与えた」
「課題って、俺と遊ぶことが?」
「皮肉だろうな。人間を心から愛せないのなら、猫ならどうだ、と」
「それは、違う、と思うけど」
ノアは極端なことを言うレイムに眉を顰めた。
「そういう人なんだよ。変人で、強大な魔法の力を持っているのに、その力を無駄に使って弟子で遊ぶような男だ」
「楽しい人、だったの」
「楽しくない。私にとっては迷惑なやつだった」
フレッドが言っていた。先代に遊んでもらって楽しかった、と。けれど、レイムは弟子だったから、腹立たしかったんじゃないかって。
ノアは先代とレイムに出会ったあの日が、生きていた中で一番幸せな日だった。
もし、あの日の出会いに意味があったのなら、ノアが、いま生きて、レイムの目の前にいることだと思った。
ノアはレイムたちに出会っていなかったら、全部諦めていた。
二人がくれた、愛のかけらが今日までノアを生かしてくれた。
「――やり方は変でも師匠のやることは、いつも意味のあることばかりだったから、ずっと本当の理由が知りたいと思っていた」
レイムはノアの耳のピアスを優しく撫でた。穴を開けたばかりで、まだちゃんと血は止まっていない。触れられると少し傷がピリピリした。
「魔法使いは、人に心から尽くすことが出来て一人前だ」
「心から、尽くす」
レイムは頷いた。
「例え師匠の死に目に会えなかったとしても、困っている人を見たら手を差し伸べなさい。師匠は常々そう言っていた」
「それって」
ノアはレイムの寝間着の袖をつついた。
「言われたときは、別に死ぬときに会えなくても、どうでもいいと思っていた。人はいずれ死ぬのだし、朝から晩まで近くにいて師匠の顔も見飽きていたから」
レイムは苦笑した。
「きっと師匠は泣いていたお前を放っておけなかったんだろうな。だから自分の代わりに私をあの場に置いて行った」
「だったら、やっぱり俺のせいだ」
ノアがそう言うと、レイムはノアのほっぺたを優しくつねる。
「関係ないと言っただろう」
嗜めるようにレイムは言った。
「でも!」
「私は師匠が逝った後、近い未来、お前と何かあるんだろうなと思っていた」
「何かって」
「何だ忘れたのか? 大好きだって、また会いたいって、お前は、あの日私に縋りついて言っただろう?」
レイムは不敵に笑った。
「え、えっと」
ノアは顔を真っ赤にする。確かに、木の穴の中でエイミーと一緒に眠ったとき、力一杯自分の気持ちを言葉で伝えた。大好きだって。
「人は約束を守らない生き物だ。絶対迎えにいくと手紙を入れて私を捨てた親がそうだし、悪意を持って他人を騙すような人間もいる」
「……うん」
「あの日ノアは、私の目を見て、絶対と言った。どうせ来ないと思いながら……私は、ずっと覚えていた。師匠が繋いだ縁だったから」
「分かってた、のかな」
「ん」
「レイムさんのお師匠さま。俺が、レイムさんに会いに来るって」
「不思議な人だったから、未来が見えていたのかもしれない。今となっては分からないが、森に変な魔法を残して逝ったのも、私が誰にも会わずに森に引きこもると思ったからだろう」
「優しい人、だったんだね」
ノアは、あの日のことを思い出す度あったかい気持ちになった。レイムの師匠が優しく抱きしめてくれたから。レイムが、いっぱい遊んでくれたから。
二人が優しくしてくれたから、ノアは寂しさに押しつぶされることなく、大人になるまで生きてこられた。
「ノアが弟子入りしに来た日。目を開けたとき、お前が膝の上にいて、あぁ、そういうことかって理解した。なるほど、約束を守る誠実な人間もいるんだなって」
「ッ、ぅ」
レイムは、にっ、と意地の悪い笑みを浮かべた。
「私の人間不信は、お前のおかげで治っているよ」
「エイミーに会いたいって、森でつぶやいたから。俺、レイムさんに会えたの」
「あぁ、そうだ。名前は間違っていたが……オマケだろうな」
会いたい人に会える森。
森の中で、さ迷っていたときノアはエイミーに会いたいと口にした。
――そして、レイムに、レイミーに再会した。
「お前が会いに来るまでは、人間なんて軽薄なものだと思っていた。お前は会いたいと言ったくせに、全然会いに来ないしな」
「その……森じゃなくて家の離れに閉じ込められるようになったし、名前……違った、し。だから、会えなかったのかな」
「きっと、つらいとき頼れる人ができたのだろう、と思っていた。それなら、もう会えなくてもいいと思ったこともあった」
レイムはノアを胸に抱いて頭を撫でてくれる。
「でも再び会ったノアは寂しいままだった。小さな子供のように甘えたのくせして、素直に欲しいものを言わないしな」
最初から、全部教えてくれたらよかったのに。ノアは思った。けれど、ノアは自分で自分の本当の望みが分からなかった。
人に迷惑をかけないために魔法が使いたい。他の人と同じように働きたい。
魔法使いになれば、全て解決すると思った。
けれど、そうじゃなかった。
ノアは、愛されたかった。
それ以上に人を愛したかった。愛せる自分になりたいと思った。獣の性に翻弄されることなく、偽りない気持ちを伝える。そんな自分になりたいと思った。
好きな人に大好きって伝えたい。
「魔法使いは、人の願いを叶えるものだ」
レイムはノアの体を抱き上げた。
「お前の本当の願いはなんだ。耳に穴を開けて、私の使い魔になることじゃないだろう?」
ノアは前足をレイムの頬に当てた。ノアの蜂蜜のようにとろけたオレンジの瞳がレイムを見つめる。
「レイムさんが、好き、です。だから、ね。ず、ずっと、レイムさんと一緒にいたい」
やっと偽りなく伝えることが出来た。自分の本当の気持ちだった。
「あぁ」
レイムはノアに優しく微笑み返した。周りの空気がふわりと温かくなった気がした。
「王都の街で生きたいと望むなら、叶えてやってもいいと思った。だが、元よりお前に命を削らせるような魔法を使わせる気はない」
ノアは、こんなにもレイムに愛されているなんて知らなかった。嬉しくて、気持ちが溢れてとまらなかった。
「ところで貴様は、いつまで、そうやって猫の姿でいるつもりだ? 私に愛玩動物として飼われたいわけじゃないのだろう」
ころんと猫の姿のノアはベッドの上に転がされた。レイムはふわふわのノアの白いお腹を撫でてくる。ぞわり、と体が人間の肌を思い出した。
発情期で苦しかったとき、レイムが優しく触れてくれた日のことが頭をよぎる。
「ぁ」
「私の使い魔になったら、猫としてしか愛してやれないが? 貴様は、それでもいいのか?」
「や、やだ!」
ノアの拒絶の声に応えるように、ピアスの宝石にヒビが入った。
ノアが自分でかけた拙い使役魔法が解ける。
レイムは勝ち誇ったように、意地の悪い笑みを浮かべていた。
「ノア、私は、使い魔は要らない」
ノアは部屋に来るまで、レイムにそう言われたら出ていく覚悟をしていた。でも、今この場で、その言葉はノアを本当の意味で迎え入れる言葉だった。
小さい頃から優しさと愛情に飢えていた。欲しくて欲しくてたまらなかった。
レイムはノアが欲しかったものを、当たり前のように与えてくれた。その愛は分かりにくかったから、不安になったりもした。
けれど、ささやかな気持ちでも、全部がノアの宝物だった。
昔大事に宝石のように心の箱にしまっていた思い出。もう一度開いた途端、宝物は溢れて蓋が閉まらなくなってしまった。
レイムに触れたくて、甘やかされたくて。たまらない。
あったかい気持ちで心が満たされ、ノアは人間の姿に戻っていた。
ただ、溢れた感情は人間の体に全然おさまってくれない。
ノアの体には猫の耳としっぽが残っていた。
獣の本能のままレイムの胸元にすりっ、と額を擦りつけてしまう。その姿を見てレイムは幸せそうに微笑む。自分の感情を、気持ちを受け入れられることが、こんなにも幸せなことだってノアは初めて知った。
好きな人に、好きだって伝えたい。
この気持ちが叶えられる日がくるなんて思ってもみなかった。
人間の姿で、再びレイムにベッドに押し倒されて、頭を、猫の耳を優しく撫でられる。レイムに触れられると体がすぐに素直に喜んでしまう。
「れ、レイムさん、俺。その……そんなに触られたら」
「何も隠さなくていい」
「ッ、あ!」
発情の証を見られたくなくて体をよじったが、くすりと笑われて欲の中心に触れられた。
「みっ!」
びっくりして声を上げたら、頭を撫でられる。分かってると耳元で囁かれた。
「ノアは、子供のとき、私に、結婚して欲しいと懇願した」
「う……それ、は、うん、言った、けど」
「それなのに、再会したら、他の人間どもと同じように、私ではなく私の魔法の力を欲した。お前に、あのときの私の気持ちが分かるか? 正直、顔も見たくないと思ったな」
レイムが最初頑なに、帰れと言った理由をノアは理解した。
「だって、それは」
「しかし、本当の望みが私と添い遂げることなら、永遠に私に縛り付けてやる」
レイムはノアに覆いかぶさり、額に口付ける。
「み、ぁ!」
レイムが優しく獣の耳に触れるたび、ノアの下腹部が、ずくりと欲を主張した。
「私はお前が来るのを、ずっと待っていたのにな」
真上から誘うように見下ろしてくるレイムを、ノアは陶然と見上げていた。
「ほ、本当……に。俺を待っててくれた、の」
「あぁ。ノア、いつまで私を待たせれば気が済むんだ?」
言葉にするのを許されている。発情期でもないのに、体はレイムに触れられたくて、レイムに触れたくてたまらない。
「レイムさん、が、好き。大好き、だから、離れたくないよ」
ノアは、ぎゅうぎゅうとレイムに抱きつく。
「あぁ。猫でも猫じゃなくても。頑張り屋で、まっすぐで。私のことばかり考えている。そんなお前だから、愛しいと思った」
「っ、ぅ」
嬉しくて、涙がぽろぽろと溢れてきた。レイムはノアの涙をキスで拭ってくれる。
「お前がこの家を出て行くと言ったら、常闇の中に閉じ込めて、永遠に飼ってやろうと考えたりもした」
その仄暗いレイムの感情をノアは、ふわふわした気持ちで聞いていた。
額に、頬に、唇にキスをくれた。親愛のキスじゃない。ノアの発情とレイムの発情を交換するようなキス。舌を絡めながら口づけを交わしている間に、胸の尖りを指でくすぐられた。人間の姿をしているのに、猫の子のように鳴いて甘えてしまう。
「ッ、あ、なん、で、胸」
「気持ちいいか?」
レイムに触れられるなら、どこだって気持ちよかった。小さく薄紅色をした胸の尖りは、レイムが育てるように触ると、性器と同じように快感を主張し始める。胸から下腹まで届く直截的な快楽に、ノアの体は悦んで反応した。触られてもいないのに性器からはトロトロと甘い蜜が溢れている。
「やっ、ぁああ、ぁ」
獣のようにしなやかな若い体はビクビクと震えた。狭い一人用の寝台が、ノアとレイムの重さでギシリと音を立てる。組み敷かれているベッドのシーツは、ノアが過ぎた快楽から逃れようとして動くたび波打ち乱れていく。
「お前は、寂しがり屋だから。二度とこんなバカなことをしないように、隅々まで愛してやろう」
レイムはノアの人間の耳のピアス穴に口付けた。舌で舐められると、塞がっていない穴がチリチリと痛い。けれど、次第にその痛みが甘く疼くような快感へと変わってしまう。
触られていない獣の猫耳が、レイムの愛撫に応えるようにぴくぴくと快楽を訴えて動いていた。
「ッ、ぅ、あっ、みぁ、ぁ、あ、耳」
「あぁ、猫の耳も触って欲しいのか」
「んっ、レ、ム、さ……」
「なんだ」
「ぁ、レイムさん、んっ」
甘えるように何度もレイムを呼んだ。
レイムの熱に浮かされたような紫の瞳を、薄桃色の薄い唇を、うっとりと見上げている。ずっと触れたかった。艶やかな揺れる黒髪に手で触れた。
「レイムさんの、髪、俺、好き。ずっと、いっぱい、触りたかった」
「そう。それは知らなかった」
「すき……れ、むさん」
「あぁ」
呼びかけると返事をしてくれる。鼓膜が性感帯にでもなったようだった。幸せでとろけて体がなくなってしまいそう。体に触れるなら自分でだって出来る。発情期の苦しさから逃れるため、自分で自分を慰めるのは義務だった。
相手がいて応えてくれる幸せを感じていた。
段々と何も考えられなくなっていった。ノアの発情をレイムが当たり前のように受け止めてくれるから。奔放に求められた。
ノアは我慢できなくなり、自分からレイムの唇を求めて重ね合わせた。
キスの合間のレイムの甘い吐息に煽られる。
レイムの熱い舌に、唇をこじ開けられ舌を吸われると、頭の先から腰まで痺れるような快感が通り抜けた。
「ッ……あ、レイム、さん」
「素直なお前は愛らしいな。大人になったのに、まだ子猫のように鳴く」
「ッ、んっ、あー」
口づけの息苦しささえも、快楽へと交換される。
ずっと身体中が熱をもってレイムを求めて発情していた。自分の体温の高さに、不快さより心地よさを感じている。
今、ノアは獣の性に翻弄されている。それはずっとノアが恐れていた己を振り回す暴力的な欲だった。けれど今は怖くない。ノアは本能のままに変異した欲望に身を任せていた。
寝間着を脱ぎ捨てたレイムに体を抱えられ、膝の上に乗せられた。ねだるようにレイムの背に腕を回した。ノアとは違う温度の滑らかな白い肌は、触れているだけで気持ちがいい。
肌と肌を重ね合わせる心地よさに、ノアは魅了されていた。
レイムはノアの猫の耳に触れてくる。くすぐったくて、耳は、ぷるぷると勝手に動いてしまう。けれど決して嫌じゃなくて、むしろ、もっとさわって欲しいとさえ思っている。
レイムに獣の耳をくすぐられながら、口付けられると、たまらなかった。
快楽に尻尾がピンと立って震えた。
キスをしながらノアの頬に触れていた手が離れて行くのを名残惜しく思っていたら、しっぽの付け根をトントンと優しく叩かれた。
「み、ぁ! あっ! やっ、やだっ」
「嫌か? 随分良さそうだが」
向かい合って抱き合い。手のひらで優しく性器を上下に扱きながら尻尾を弄ばれている。過ぎた快楽に頭がおかしくなりそう。けれど、もっといじめられたくて、無意識に尻尾をレイムの手に絡めてしまう。
そんな快楽に貪欲になっている姿を優しく見下ろされている。。
「んっ……あ……やぁ……」
「気持ちいいか」
「うん……きもち、いい、レイムさん」
「よかった」
「レイム、さんは、あの……えっと」
自分だけよがっているのが、段々と恥ずかしくなって、ちらりと視線を下に向けた。するとレイムの下腹が自分と同じように熱を持っているのに気づいた。雄々しく勃起し発情を露わにしている。
人間と獣人じゃ同じところなんてない。ずっと、それが寂しかった。だからレイムがノアと同じように気持ちを溢れさせているのが分かって嬉しくてたまらない。
「欲しいか? まだ、誰にも許していないのだろう?」
レイムの欲を目の当たりにして、ノアはコクリと喉を鳴らす
「ッ、ぁ……」
ノアの手をやんわりと掴むと、レイムはノアの手のひらを自身の発情へ導く。
「お前の中に、この子種を注げば、猫の子ができるかもしれない、な」
「っ、ぁ」
「それでも、したいか?」
レイムに、かぷりと人間の方の耳を食まれて、舌で耳朶を舐められた。体の力が抜けてふにゃりとなる。
「……ふ、ぁ、んっ」
ノアはレイムの胸でこくこくと頷いた。
「そう。私も欲しいよ。お前の全てが」
求められたことが嬉しくて、ノアは顔を上げて目を見張る。
「お前は甘えたで、寂しがり屋だから、子も、きっとお前みたいに。甘えたで、愛らしいのだろうな」
「っ、ぁ……」
舌で耳のふちをぞろりと舐められる。顔が真っ赤になった。我慢できなかった。
レイムはノアを膝の上に乗せたまま、後孔に指で触れる。
指をゆっくりと差し込まれると、反射的にきゅとレイムの指を絞めてしまった。ねだっているみたいで恥ずかしい。発情の証で後ろは蜜をこぼしていた。レイムが指を動かすたびに、やらしい水音が部屋に響く。レイムが繰り返しノアの後孔をあやすうち、ノアの後ろの性器はとろとろになっていた。
「ッ、ぁ」
レイムはノアをベッドに横たえた。離れていくのが寂しくてノアはレイムの手を握る。
「なんだ、ちゃんと準備しないと、入らないだろう?」
「でも、離れない、で、欲しい、から」
「本当に、お前は、甘えただな」
くすりとレイムに笑われて、上体を抱きしめられる。首筋や、胸にキスをされながら、後ろの穴を広げられる。
「ぁ、んっっ、ぁ、みぁ……あ!」
レイムに中を慣らすように指を動かされると、子猫のように鳴いてしまう。レイムの指が気持ちよくて、でも足りなくて。恥ずかしいのに足を広げて痴態を晒していた。
興奮で目がくらみ、身体が発情に支配されている。このままお預けを食らったら、レイムを押し倒して自分で耽ってしまいそうだった。
レイムの興奮の証を目に入れるたび煽られている。早く長大な肉茎を沈めて欲しい衝動に駆られた。
けれどレイムは、そんなノアをなだめるように、優しく後ろを広げてくる。
レイムだって苦しいはずなのに。
「もう、大丈夫、か」
確かめるようにひたり、と後孔へ熱杭を押しあてられる。ノアはレイムの背に腕を回しぎゅっと抱きついた。もっと深くレイムと結ばれたい。その気持ちでいっぱいだった。
「いい、から……」
「あぁ」
ノアが先を促すとレイムは硬い熱を奥へ進めてくれる。
レイム自身がゆっくりと筒を進んでいる間も、こりこりと気持ちいい場所を擦られて、その蕩けるような快感に泣きそうになった。
「尻尾もして欲しいか?」
そういってレイムが、尻尾に触れた瞬間だった。中が緩み、最奥までレイムを迎え入れてしまう。その衝撃で息が詰まった。
「あ!」
「ッ」
ノアが後孔を甘く締め付けたことで、レイムは目を細めた。いつもは汗ひとつかかない白い肌が、興奮で色づき、うっすらと汗ばんでいた。普段一切、俗っぽい欲など感じさせないレイムの生の性欲に翻弄される。
「や、あぁぁ……しっぽ……きもちいい、中も」
尻尾を優しく愛撫されながら、仰向けの状態で体を前後に揺さぶられる。内側の刺激が今にも弾けそうなノアの発情へと直截に伝わる。
「ふぁ、あ、すき、れ、レイムさん、だい、すき」
レイムの背中に腕を回してしがみつく。譫言のように好きだと繰り返す。けどその言葉だけじゃ足りなくて、尻尾で気持ちを伝えるようにレイムの手首に巻き付けた。
この気持ちが全部伝わりますように。ノアが使える魔法だ。獣の体で、言葉にしなくても伝わってしまう。大好きって気持ち。
「あぁ。私も、ノアが好きだ」
好きと返されて、甘い多幸感に包まれていた。
ノアのオレンジの瞳が、快楽の涙で潤み夕日みたいに蕩けている。
前後に揺するだけだった動きは、その先を求めてスピードを増していく。
二人の荒い呼吸だけが耳に届いていた。お互いが欲しくてたまらないという二人だけの秘め事にノアは嬉しくなる。
「っ、ふぁ……あ……あああ」
ノアの知らない、もっと奥へ欲しくなり、どんどん切実さは増していった。
それはレイムも同じだった。抗えない欲が募っていくうちに、次第に奔放に舌を絡めながら口づけお互いを求めた。上下の動きが激しさを増していく。
最奥を熱杭で一際強く叩かれたときだった。ノアは目の前がパチパチと白んで極めていた。その、少し後、最奥にレイムの熱が放たれる。
嬉しくて生理的な涙がぽろぽろとこぼれた。その涙を優しく舐められて、レイムは人間なのに、二人で獣になった気分だった。
「俺……ずっと、これからもレイムさんの、そばにいて、いいの」
ノアは、快楽の余韻に浸りながらレイムの胸にしがみついた。
「なんだ、私と結婚するためにここへ来たんじゃなかったのか?」
レイムは当然のようにそう言って、ノアをからかうように笑う。
「ッ、う……して、くれるの?」
「それが、お前の本当の望みなら」
ノアは溢れる気持ちと衝動のまま、レイムの唇に甘い甘いキスをしていた。
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