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「え、いいんですか? 初心者でもできるような曲ってありますか?」
「もちろんあるよ。乱暴な言い方をするなら、太鼓くらい誰でも叩けるし」
それこそ幼児が叩いても音がでる単純な楽器だ。
「じゃあ俺が教えるから、陽斗も叩く?」
「え、僕?」
「そう。部外者の俺より学生さんは喜ぶだろ。陽斗と一緒に演奏できたら」
断言すると、陽斗はしばらく考えて「じゃあ、そうしようかな」とうなずいた。
「でも曲まで教えると大倉さんの負担が大きくないですか? 学校まで来てもらうことになるんですけど」
まだそんな他人行儀なことを言う。
「時間のことなら平気だよ。ここはそういう習慣だから」
何事にも鷹揚なこの島で、友人の頼みごとのために時間を融通するくらい何でもないことだ。
そもそもこの島には日本人は四人しかいない。何かあればみんなで協力するのが暗黙の了解だ。
「そうですね。ありがとうございます」
ほっとしたように頬を緩ませて、律儀に頭を下げる。目立つ容姿ではないが、大倉ははにかむような笑顔やびっくりして目を丸くする表情がかわいいと思う。
異文化の中で驚きながらも相手を理解しようとする姿勢や、日本人らしい控えめな好意の出し方は、積極的で押しの強い人々に囲まれて暮らしている大倉に新鮮な感覚を与えた。
「楽しみだな。ああ、そろそろご飯、作ろうか」
太陽が沈む最後の光が水平線に消えていこうとしている。
嵐が来るからテーブルとイスも室内にしまって、家じゅうの窓と雨戸をすべて閉めると、二人だけの小さな世界が完成した気分になった。
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