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同僚の矢沢先生から紹介された大倉は、初対面から親切でこの島のことをいろいろ教えてくれた。
外見も好みで性格もよくて、親しくなりたいと思ったけれど、眩しすぎて好きになるのもおこがましい気がしたし、友達つき合いができたらそれで十分だと思った。
それなのに、隣にいる。夢みたいだと思う。
テラスで海に沈む夕日を眺めながら一緒にビールを飲むなんて妄想でしかないシチュエーションに、現実感がなくなってしまう。
夕日を浴びてごくごくとビールを飲む姿はCМに出てきそうなくらい素敵だ。ぼうっと眺めてしまって不審がられてしまったが、カッコいいものはカッコいいのだ。
本当は太鼓のことを頼みがてら、一緒に夕食を食べたりできたらいいなとちょっとは期待していた。でもスーパーで買い物にいく流れでそのまま泊まることになって、実はめちゃくちゃ動揺している。
仕事帰りで、もちろん何も持っていない。リュックの中は仕事道具の教科書とタブレット。
どうしよう。いいのかな、いいんだよな。え、でも泊まるって、ええと……。
「魚の煮込みとトマトソテーでいい?」
突然の事態に脳内であたふたしていると、大倉がキッチンに立ってこちらを見ていた。あわてて意識を取り戻す。
「はい。何か手伝いましょうか?」
そう言っても、料理のできない陽斗ができることはほとんどないが、大倉はちゃんと陽斗ができる仕事をくれた。
「じゃあそのトマトとパプリカを洗って、大きめにざっくり切って」
「わかりました」
つやつやの野菜を洗って切る間に、大倉は大きな魚を見事な手つきでちゃっちゃとさばいた。海のそばで暮していればできるようになると以前言われたが、こんな手際よくなる日が来るかなあと疑問に思う。
浅めの鍋にオリーブオイルとガーリックを入れて火にかけ、陽斗が切った野菜やキノコをざっと放りこむ。唐辛子やレモンを入れて白ワインでさっと火を通す間に、陽斗はレタスをちぎって、大倉はキュウリを切る。
「いい匂いですね」
「うん、オリーブオイルとガーリックって最強だよな」
大倉が別のフライパンでトマトをバジルソテーしている間に、陽斗がバゲットを切ってトースターに入れ、トマトソテーをレタスの上にざっと盛りつける頃には、もう魚の煮込みができあがっていた。
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