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「ビールでいい?」
「ええと、はい」
迷ったけれど、少しくらい酔っていたほうが緊張がほぐれるかもしれないと思って2本目のビールをもらった。缶のまま乾杯して、まずは煮込みを食べる。
「このスープ、めちゃくちゃおいしいです」
「エミリーに作り方、教えてもらったんだ。簡単なのにうまいよな」
魚が新鮮だからハーブソルトだけでしっかりうま味が出る。この島ではどこの家でも作る家庭料理らしい。
「このアボカドディップもうまいよ。キュウリつけて食べてみて」
大きなガラス瓶からスプーンですくってくれたディップは、コクがあってみずみずしいキュウリによく合った。
「あ、この味好きです」
パンにつけてもよさそう。見つけたら買おうとラベルをスマホのカメラで撮っておく。
「小瓶がないんですよね。味の予想がつかないからチャレンジできなくて」
「わかる。外した時のショックが大きいよな」
「大倉さんでも外したりしますか?」
「もちろんあるよ。予想外の味で吐きそうになったこととか」
と笑って、それからふといたずらっぽく「で、まだ大倉さんなのか?」と言った。
「あ、あの、えーと」
告白された時に「次からは名前で呼んで」と言われたのを忘れていたわけじゃない。でもいきなり「修二さん」なんて呼ぶのは馴れ馴れしい感じがして口に出せない。
「さっきの太鼓のお願いの時も大倉さんだったし」
拗ねたような顔をしてバゲットを口に運んでいる。あわてて言い訳する。
「あれは、その、こっちからお願いするから、なんて言うか」
「うん。でも今は完全プライベートだろ?」
今度は目を細めて、優しく微笑む。
うー、イケメンの笑顔は威力がありすぎる。心臓がもたないからやめて欲しい。でもこれは名前で呼んでってことなんだよな。
陽斗は急いでビールで喉をうるおしてから、覚悟を決めて口を開いた。
「えっと、修二さんも……、なんでしたっけ?」
名前を呼ぶことに気を取られて質問を忘れてしまった陽斗が首をかしげると、大倉は肩を揺らして笑った。
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