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トースターがチンと音をたてて、部屋はおいしそうな匂いでいっぱいになる。コルクの鍋敷きの上にどかんと鍋ごと置いて、席についた。
「ビールでいい?」
「ええと、はい」
迷ったけれど、少しくらい酔っていたほうが緊張がほぐれるかもしれないと思って2本目のビールをもらった。缶のまま乾杯して、まずは煮込みを食べる。魚の白身がほくほくやわらかく、熱々のレモン風味のスープがうまかった。
「このスープ、めちゃくちゃおいしいです」
「エミリーに作り方、教えてもらったんだ。簡単なのにうまいよな」
魚が新鮮だからハーブソルトだけでしっかりうま味が出る。この島ではどこの家でも作る家庭料理らしい。
「このアボカドディップもうまいよ。キュウリつけて食べてみて」
大きなガラス瓶からスプーンですくってくれたディップは、コクがあってみずみずしいキュウリによく合った。
「あ、この味好きです」
パンにつけてもよさそう。見つけたら買おうとラベルをチェックしていると大倉が言った。
「写真撮ったらいいよ」
「そうします」
覚えておけるか自信がないのでスマホのカメラで撮っておく。これで安心だ。
保存がきく瓶づめの調味料や加工食品はいろいろ売っているが、どれもサイズが大きくて陽斗はなかなか手が出せない。
「小瓶がないんですよね。味の予想がつかないからチャレンジできなくて」
「わかる。外した時のショックが大きいよな」
「大倉さんでも外したりしますか?」
「もちろんあるよ。予想外の味で吐きそうになったこととか」
と笑って、それからふといたずらっぽく「で、まだ大倉さんなのか?」と言った。
「あ、あの、えーと」
告白された時に「次からは名前で呼んで」と言われたのを忘れていたわけじゃない。でもいきなり「修二さん」なんて呼ぶのは馴れ馴れしい感じがして口に出せない。島の人たちはみんな気軽にシュウジと呼ぶけれど、それは日本人じゃないから普通に聞こえる。
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