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「さっきの太鼓のお願いの時も大倉さんだったし」  拗ねたような顔をしてバゲットを口に運んでいる。あわてて言い訳する。 「あれは、その、こっちからお願いするから、なんて言うか」 「うん。でも今は完全プライベートだろ?」  今度は目を細めて、優しく微笑む。  うー、イケメンの笑顔は威力がありすぎる。心臓がもたないからやめて欲しい。でもこれは名前で呼んでってことなんだよな。  陽斗は急いでビールで喉をうるおしてから、覚悟を決めて口を開いた。 「えっと、修二さんも……、なんでしたっけ?」  名前を呼ぶことに気を取られて質問を忘れてしまった陽斗が首をかしげると、大倉は肩を揺らして笑った。  食事しながらダイビングで見た魚やクラゲの話をしているうちに、陽斗もリラックスしてきた。ビールが程よく回ってお腹もいっぱいで、好きな人がそばにいる。  ゲイの自分に恋人ができるわけないと思っていたのに。日本から遠く離れた南の島で、人生初の恋人ができて、一緒にご飯を食べている。  こんな幸せが待っているとは、日本で仕事をしていた頃には夢にも思わなかった。  外からは風の音が聞こえているし、これから嵐が来るというのに、この部屋の中はとても安心できる。  片付けをふたりで済ませて、リビングで映画を見ることにした。陽斗も映画好きなので、互いにおすすめを紹介したり、映画館に行ったりもする。 「ネット配信のある時代でよかったと思うよ」 「そうですね」 「すこし前まではレンタル落ちのDVDとか海賊版とかがいっぱい売ってたらしいけどな」  今はオンデマンドで好きな番組がいつでも見られる。大倉は最初は英語の勉強のために見ていたが、アメリカのドラマシリーズにハマって熱心に見るようになったらしい。  リビングに置かれたソファは寝転んでテレビを見るために大きいものを選んだそうで、大人が四人ほど座れそうだ。それなのにぴったり横にくっつかれて、心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと心配になる。  いや、それよりも自分の心臓が破れるのが先かもしれない。大きな手が髪をなでるので、陽斗はかちんと体を硬くした。

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