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「そんな、緊張しないで」 「だって、もう無理……」  陽斗は首筋まで真っ赤になってうつむいた。  恥ずかしくて埋まりたい。今どき高校生だってこのくらいのスキンシップで照れたりしないだろう。でもこれまで何の経験もない陽斗は、好きな人が側にいるだけでもドキドキする。  ちゅっと耳元にキスされて、焦って口を開いた。 「あ、あの、文化祭では浴衣、着るそうです」 「へえ、浴衣があるんだ? 陽斗が着せるのか?」 「いえ、ウィリアム先生とコナー先生が。毎年、着ていて帯を結べるからって」  日本人が浴衣の着方を教えてもらうのかと大倉は声を上げて笑い、ふと思いついたように言った。 「陽斗の浴衣、見たいな」 「えっ?」 「着るんだろ?」 「いえ、着ないと思いますけど。学生の発表のために着せる予定なので」 「なんだ、残念」 「あ、でも太鼓って浴衣でも叩けますか?」 「もちろん。袖を襷(たすき)でまとめておけば問題ないよ」  さっきから大倉がいたずらな指であちこち触るので、陽斗はうろたえて目線をきょろきょろさせている。こういう時はどこを見てたらいいんだ?  映画のストーリーはもうよくわからない。でも構わない。映画よりも現実のストーリーのほうが大事だから。ただ困るのは、現実は自分の予想を超えて、大倉があまい雰囲気を出すことだ。 「陽斗はかわいいな」  耳元でささやかれて、陽斗は「ぎゃーーーーー」と叫びたくなる。そんなことを言うのは大倉が初めてで、背中がむずむずとむずがゆい。  でもここで「かわいくないです」と否定するのはせっかく言ってくれた大倉に悪い気がするし、「はい」とか「ありがとう」なんてことも言えない。なので、落ち着かない気分で黙りこんでしまう。 「真っ赤になって照れるのも、本当にかわいい」  あーーーーーーーーーーーーー!  耳をふさいで床を転げまわりたい。みんなはこういう時、どんな対応をしてるんだ? 大倉の目がおかしいことを指摘したほうがいい?

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