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 バスルームは白とオレンジのタイルがとても明るくてきれいだったが、大倉の体がすぐそばにあって、陽斗はおろおろしていた。  一緒にダイビングした時に水着姿なら何度も見ている。と言っても、好きな男の裸を正面からがっつり見る勇気はなくて、視界に入れるだけで精一杯だった。  目線はいつも指先や肩をかすめるだけで、たまにたくましい胸や腹筋が目に入るとドキドキしていた。  いまは全裸で目の前にいて、陽斗の心臓はドキドキどころじゃない。 「手、出して」 「はい?」  大倉はボディソープをもこもこと陽斗の両手いっぱいに出して、自分の手にも山盛りにした。花の香りがバスルームに広がる。 「じゃあ俺が陽斗を洗うから、同じ場所を陽斗が洗って」  え、まじで?  思わず顔を上げてしまい、楽しそうに笑う大倉と正面から目が合ってあわてて目線を落とそうとしたら「顔見てて」と優しく命じられた。  目を合わせたまま体を触りあうってこと? そんなリア充しかしてなさそうなこと、初心者にはハードルが高すぎる。 「え、でも、あの」  心臓が口から飛び出しそうになりながら目線を合わせようと頑張るけれど、勝手に後ろのタイルに逸れてしまう。 「陽斗」  いたずらっぽく呼ばれて目線を戻したら、キスされた。と同時に泡が肩に乗ってきた。そこから背中へともこもこの感触が下りていく。くるくると円を描くように背中を撫でられて、びくっと背筋が跳ねた。  なだめるようについばむような口づけをされて、おそるおそる大倉の手の動きを追って背中を撫でおろす。  背中から腰、肩から二の腕へ大倉が触れる通りに動きを追っていたが、キスが深くなるにつれて陽斗の手は止まってしまった。気がつけば泡はとうに消えてしまい、大倉は手のひらで陽斗の体を撫でている。 「すべすべだな、陽斗の肌。気持ちいいよ」 「う……っ、ふ……」  キスの合間に陽斗の息がこぼれて、小さな声がバスルームに響く。体に触れあってキスしていると、ものすごく大倉が近くなった感じだ。  こんな風に人の肌を感じるのは初めてで、心の中でぱちぱちと何かが弾けているような気がする。それがうれしくて同じように感じて欲しくて、おぼつかない手つきで大倉の背中に腕を回したら、ぎゅっと抱きしめられた。

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