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小さなミスが続いたことがきっかけで同期からも孤立し、部内全体からなんとなく疎外されるようになり、半年たつ頃にはストレスで全身に蕁麻疹が出たり、胃痛や下痢や嘔吐が続いたりするようになった。
それでも頑張って就職活動をして入った会社だから、体調が悪くても必死に仕事に行った。けれども夏には高熱を出して3日ほど休んだ。
熱が下がって何とか出社したら「まだいたのか」とその先輩社員からさらにひどい嫌がらせをされるようになった。
「どうしてこんなことをするんですか?」と一度、訊いたことがある。彼は虫けらでも見るような目つきで「気に入らないに理由があるか?」と平然と答えた。
その返事に絶望した。改善点が見つからなかったからだ。自分に非があれば改めることもできる。
でも彼は「気に入らない」だけで、こんなことをしているのだ。
この先ずっとこの配属先とは限らない。部署移動を願い出れば、聞いてもらえるんだろうか。
そんな望みを持って上司に異動願いについて訊ねてみたが「お前みたいなそそっかしい奴を欲しがる部署があるか」とこき下ろされた。
上司は完全に先輩社員の言い分を信じていて、陽斗を使えない足手まといだと断定していたのだ。
そんな環境で必死に頑張っても事態は好転せず、逆に頑張れば頑張るほど先輩社員の嫌がらせはひどくなった。
「課長に異動を頼んだそうじゃないか。バカだな、お前みたいな役立たずがよそに行けるわけないだろう。お前はずっと俺の下にいるしかねーよ」
それを聞いて、目の前が真っ暗になった気がした。入社してまだ1年も経っていない。この先あと何年かわからないが、彼が異動するまで、あるいはずっとこんな状態で仕事をするのか。
年末に帰省した実家で「痩せすぎだ」「大丈夫なのか」と家族に心配され、年明けに職場で倒れたことで退職を決めた。
「体や心を壊してまで仕事する必要なんかない」と病院に駆け付けた両親が言ってくれたことでようやく決心がついたのだ。
退職届を出したその足で何となく入った喫茶店で「日本語教師募集中」というポスターを目にしたのは、どんな神様のいたずらだったのか。
「美しい自然と豊かな時間がここにはある」というキャッチコピーとともに、海と空の鮮やかな青が目に焼きついた。美しいなと、その写真に目を奪われた。
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