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「あ、まめになってるな」
大倉が陽斗の手のひらを確かめる。
「うん。和太鼓って結構、力使うんだね」
先週から大倉に教えてもらっている和太鼓は、やってみればかなり難しかった。手首のスナップを効かせて叩くのだが、この弾くように叩くというのがけっこうコツがいる。
それでもたまにうまく叩けて、どおんと腹に響く音が出せると本当に気持ちがいい。学生たちもそう思うようで、思うような音がでると笑顔になる。
曲は3分ほどの短い曲と、もう少し長い5分ほどの2曲だ。日本語クラスの全員が叩けるように2曲にしたところ、学生がものすごく張り切って、毎日練習している。
一日おきに大倉が様子を見に来てくれて、頻繁に顔を合わせるから敬語もだいぶ取れて普通に話せるようになってきた。
「タイミングというか、力加減がわかればそんなに力まなくてもいいんだけど」
「つい力が入っちゃって。でもいい音が出るとすごくテンション上がって楽しいです」
太鼓のリズムはとても原始的で人を惹きつけるようでみんなが見にやってくる。そして陽斗よりもはるかにリズム感のある学生たちは、トントンといい感じにリズムに乗って叩いている。楽しそうな笑顔にやる気を感じる。
陽斗はと言えば、運動らしい運動をしていないから、初日は十五分ほど叩いたら腕から肩がへろへろになってしまった。そして翌日、背中全体が筋肉痛になっていた。背筋って筋肉なんだなとみょうに納得した。
「あと三日だっけ?」
「はい」
「楽しみだな」
文化祭は今週末だ。歌やダンスの発表も多くあり、たくさんの屋台も出て、町の人たちも毎年、大勢やってくる。あの腹の底に響く音がたくさん出せるといいと思う。
「浴衣で叩くのも慣れた?」
「はい。そんなに気にならないです」
本番でいきなり浴衣はやりにくいからと、今週は浴衣を着て練習している。
「浴衣って色っぽいよね」
「え、いえ、あの……」
大倉の浴衣姿を想像して、陽斗はこくりとうなずいた。きっと色っぽくてかっこいいだろうな。
「文化祭終わったら、ご褒美に浴衣エッチさせてくれる?」
「え? ええっ?」
陽斗が驚いたら大倉が「冗談だよ」と取り消しそうだったので、耳まで真っ赤になりながら急いでうなずいた。そのくらいでご褒美になるなら喜んでと言いたいくらいだった。
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