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第27話

 海智の運転は、すごく心地よかった。多分、うまいってことなのだと思う。  発車も停止もわからないほど、揺れない。車がいいからなのかもしれないが、ハンドルを回す姿も非常に優雅で、見惚れてしまう。  途中で海降りたって、静かなカフェでおいしいドリンクを飲んだり、別荘に行く道すがら、壮大な滝を見せてくれたり、華麗なドライブデートにすっかり俺は興奮しきっていた。 「先輩、いろんな場所知ってるんですね!すごい…」  車の中で、途中で購入した地元のオーガニック野菜とフルーツを100パーセント使用したドリンクを飲みながらつぶやく。  中学生の時だって、別荘で、二人きりで大人なしで泊まれることに、非常に感動したのを覚えている。たった一つしか生まれた年は変わらないのに、すごく大人に見えた。経験豊富な遠い存在に思えた。今、なおさら、それを強く感じる。  ずず、とストローを吸うと、優しい口当たりと自然本来の甘みで身体から力が抜けていく。  隣で、ふふ、と柔らかい笑い声が聞こえて、視線を移すと、また海智は笑っていた。今日の海智は、ずっと笑っている。 「だったら、この一週間で調べまくった成果が出たな」  嬉しいよ、と微笑む海智に、胸がいっぱいになる。  こんなに経験豊富な彼が、俺のためだけに、このコースを調べてくれたのかと思うと、幸せで溶けてしまいそうだ。 「…俺も、嬉しいです…すごく…」  ただの独り言で、小さく小さくつぶやいたから、聞こえなかっただろう。外を見ると、森の中で、そろそろ別荘だろうかと思っていると、減速して車が停まった。 「あれ、もう着きました、」  か?と振り返りざまに聞くと、ぎ、と座席が鳴って、すぐ目の前にサングラスで前髪を押し上げた海智の顔があり、唇がしっとりと柔らかいものと触れ合う。あっという間にそれは離れていき、海智は前を向いて、サングラスをかけ直した。やや乱暴に、発進した車の中で、海智が、かわいすぎ…とつぶやいたのが聞こえてしまい、キスのためだけに緊急停車されてしまったのかという現実に気づいてしまった。かあ、と耳の先まで真っ赤になってしまっていることが容易に予想された。  別荘は、あの頃と何も変わっていなかった。  森の中にあるログハウスで、目の前には、大きな湖がある。以前はここで釣りをしたりしたっけ、と思い返す。夏なのに、ログハウスの中は高い天井のおかげか、涼しく快適だ。海智が用意してくれたお茶をたしなんだあと、二人で火起こしから初めてバーベキューをした。お坊ちゃまのはずなのに、難なくすべてをこなしていく海智に、改めて優秀なアルファなのだと痛感させられる。たった二人きりの森の中。風呂も露天風呂となっていて、夜空がきれいだった。開放的な夜に、身体の緊張がほぐれていく。しかし、この後のことを思って、ばしゃ、と顔にお湯をかけた。あまり長風呂を楽しんでいる場合ではない。今一度、夜のために準備をして、身をきれいにしておく。  前回、せっかく盛り上がったムードを入浴にこだわったせいで、海智の反応が悪かったのだと理由づけている俺は、先に海智に風呂に入ってもらった。だから、彼をあまり待たせてはならない。しかし、念入りに。久しぶりに、何か失態を犯さないように。  ほかほかの火照った身体に海智が用意してくれたパジャマを着て、リビングに戻る。電気がすべて消されていて、何かと思うと、いくつかのキャンドルと灯した中に、きらきらと光る姿があった。リビングの大きな窓からは、湖がよく見える。その湖も月明かりを反射し輝いている。まるで、天国か何かなのかと思った。あまりにも尊厳ある風景に身動き取れずにいると、海智がゆっくりと振り返った。俺を見つけると、優しく微笑み、手招きをした。海智のいるソファに腰降ろすと、肩を寄せられる。シャンプーの優雅な香りがする。俺からも同じ匂いがしているはずなのに、海智から漂うその匂いは、なんだか特別だった。顔をすりすりと濡れた頭に寄せられる。 「ごめ、濡れてて…」  そう言葉にして距離を取ろうとするが、硬く抱き寄せられてしまう。海智は、窓の外を見つめていた。 「また、ここからの風景をりんと見られるなんて、思ってもなかった…」  苦し気につぶやかれたその言葉に、真意を探してしまう表情を覗くと、海智は泣きそうな顔をしていた。 「先輩…」  そ、とまだ温かい指で顎をなぞると、視線に気づいた海智は、甘く微笑んだ。胸の奥から、淡い熱が湧き上がる。それにまかせて、唇を寄せる。ゆったりと唇を合わせる。そ、と距離を取ると、吐息が混じりあう。潤んだ瞳と見つめ合い、頬を緩めて囁く。 「俺も、また先輩と一緒にいられて、しあわせです」  海智は目を見張り、それから、くしゃりと顔をゆがめて、強く抱き寄せた。泣いているのかと思い、背中をさする。  よかった、俺の選択は、間違ってないんだ。  一瞬、脳裏をかすめたもう一人のアルファの姿を消すように、瞼をきつく閉じる。 「りん…」  耳元と囁かれた自分の名前で、は、と意識を戻す。すり、と頬が擦り合わされ、くすぐったい気持ちになる。ちゅ、と控えめに頬にキスが落ちる。 「…行こ」  かすれた劣情の見える声色に、小さくうなずくと、手を掬われて、リビングを後にする。がちゃり、と開けられたドアの奥には、大きなベットがあった。後ろ手にドアを閉め、二人でベットに座る。 「りん…」  恥ずかして俯いていると、前髪に指が通される。顎をすくわれ、目線をあわせられると、もう止められない。ずく、と腰が重くなる。  海智が俺の名前を呼ぶ。しかし、それは、お互いの口内に吸い込まれてしまった。するする、と顎に添えられた手は首をなぞって、降りていく。慣れた手つきでボタンをはずされて、羽織ったばかりのパジャマが、するり、と肩から落ちた。脇の下に手を入れられて、ベットに押し上げられながら、倒される。枕を頭のもとに入れてくれる海智の優しさに、脳がぼやけてくる。 「先輩…」  するするとサテン地のパジャマが下着と共に、足から落ちていく。期待に、肌がそれだけで粟立つ。かすれた声で呼びかけると、瞳をあわせてくれる。両手で顔をつつむと、望み通りに海智は、唇を寄せてくれる。柔らかいその唇に吸い付いては、離す。お互いがそうして、感触を味わう。  ずっとそうしていた。吸い付いては離れたり、熱い舌でお互いの中を味わったり。  唇がじんじん、と痛み出すころに、ようやくどちらともなく、唇を離した。  キスの間に弄ばれた乳首は、痛いほど立ち上がっている。 「せんぱぁ…、ここ…」  海智の手を取り、そ、と自分の胸元に当てる。 「早く…なめ、て…」  恥ずかしくて消えたくなるけど、もう痛くてたまらないのだ。キスをしながら、考えてしまっていた。同じように、ここを可愛がってほしい、と。  海智は、戯れの言葉も零さずに、ぎらついた眼差しで俺をじ、と見つめてから、その尖りを強くつまんだ。 「んうっ、ぁ、…っ、せんぱ…」  いきなりの強い刺激に、瞼を閉じてしまう。次に視界がひらけた時には、海智の頭が胸元にあった。ぬと、と滑った何かが敏感な先に垂れたと思うと、熱い舌に押しつぶされる。 「あぁ、やぁ、あっ…きもち、い…んん…」  待ち望んだ刺激に、そこから全身に快楽が流れ、染めていく。身体が勝手に仰け反ったり、ベットに沈んだりする。ぎ、ぎ、と、ふかふかのベットが鳴ると、まだ挿入もしていないのに、高まっていく自分を感じる。  自分から望んだのに、強い快感から逃げるように、身体をひねってしまう。海智が顔を離すと、簡単に身体はうつぶせになってしまう。は、は、と肩で呼吸をしていると、その肩口を、舐められる。それすら、びりびりと全身が感じてしまう。肩口から、肩甲骨を辿り、背骨のひとつひとつにキスを落とされる。時たまに訪れる甘噛みに、びくっ、と肩が揺れる。枕に顔をうずめながら、悶えるしかできない。  その間、手のひらは脇腹をなぞり、あばらのくぼみを遊ぶように撫でる。  もう、触ってほしい。  視線を落とすと、俺のペニスから、たら、と透明な液体がシーツに垂れ落ちたところだった。ぐ、と唾を飲み込む。 「せんぱ…、せんぱぃ…」  振り向くと、背中にキスを振らせ続ける海智は、手のひらで胸を揉み上げた。ぎゅう、とシーツを強く握りしめて、腹の奥に集まる熱をなんとかしたいと考える。 「…っ、かぃ、か、いち…、かいちぃ…」  海智の動きが一瞬止まる。揺れる視界の中で、海智が顔をあげて、瞠目している様子を感じた。 「りん…」 「…か、い…ち…」  彼の名前を呼ぶ時。それは、限界が近いときだと、中学生の時に教え込まれていた。もう一度、息絶え絶えに名前をつぶやくと、肩を捕まれて横抱きの形にされる。首だけ回して近づいてきた唇を受け止める。右半身で身体を支えながら、左足は、海智の身体にかけるように誘導される。恥ずかしい恰好に気づく暇もなく、唇と巧みな指先に翻弄されてしまう。 「んぁあっ」  くちゅ、と待ちに待ったペニスの先端を手のひらで撫でられると、呆気なく吐精してしまった。ぢゅう、と舌を強く吸われて、息をつくことも、喘ぐことも思うようにならずに、身体の熱は吐き出されている箇所が少なすぎて、どんどん溜まっていく。  脇の下から入り込み、鎖骨をなぞる海智の手を握りしめる。唇を吸われて、顔が離れる。赤く、熟れた表情の海智に、また腹の奥が蠢くのがわかる。 「一緒に、いき、たかった、のに…」  眉根を寄せながら、そうつぶやくと、目の前の男も眉間に皺を寄せ、眉尻を下げながら、愛しむようにキスをした。そして、脇からするすると撫でてくる手が、下生えをなぞり、双玉を揉み、会陰に手を這わせた。薄い皮膚から感じる海智の体温に、内腿が震える。 「かい、ち…」  今日は、今日こそは…  海智の腕をなぞり、手を降ろしていく。すぐそこにある、海智の尾てい骨を撫でていき、そこに手を宛がう。

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