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第8話 昔話 -前編-
小学校時代、俺は今と変わらず寡黙だったが、少数ながら友人がいた。その一人は引っ込み思案で臆病者だけど、喋ると面白くて優しい人だった。対して、俺は一匹狼で文武両道の変な奴。キレると手に負えないだろうに、友人は俺の面倒を見ようとしていた。余計なお世話だが、確かに孤高な俺を支えてくれていた。愛想悪い接し方しか出来なかったものの、いつも存在に助けられていた。
小学校の高学年ぐらいのとき、イジメに遭ってる男の子を見かけた。そいつは気弱で、泣きながらいじめっ子たちからボコボコに殴られていた。その様子が気に食わなくて、つい俺はいじめっ子たちをボコボコに殴り返してしまった。「雑魚が。」そんな捨て台詞を吐いて、気味の悪い光景ごと正々堂々とぶん殴ったのだ。それが、後に俺を苦しめることになる。
中学時代、突然友人から「ごめん。」と言われた。なぜそんなことを言うのか、聞こうと口を開いたら、友人は俺に背を向けて、まるで逃げるようにどこかへ歩いて行ってしまう。その事を、今でもよく覚えている。もう薄れてしまった過去だから、ただの古傷でしないが、とてもショックだったことは確実である。
なぜ、友人は突然、俺と縁を切ったのか。その理由は簡単で、小学校の頃ボコボコに殴って静まらせたいじめっ子どもが中学にて同じクラスになってしまったことが原因だった。ボコボコにされたのがよほど屈辱だったのか、いじめっ子どもは俺を見てすぐさま煽ってきたり、殴っても痛い目見ることを分かっていて陰湿なイジメをしてきた。そして奴らはカースト上位だったため、周りは見て見ぬふりをして、奴らを怖がっていた。俺からしてみれば、こんな意味の分からない嫌がらせをする方が低脳で無様過ぎて、呆れてしまうのだが。そんな俺だったから、イジメなんてさして刃物にすらならなかった。だが、そうじゃないやつもいる。
友人と縁が切れてから、噂で小耳にした話がある。それは、友人がクラスメイトから恐喝されていた、という話だ。クラスメイトは言うまでもなく、俺に陰湿な嫌がらせをしてきたいじめっ子どものことを指す。とことんヤな奴らだ。俺と仲が良いからと、友人にまで嫌がらせをしてきていただなんて。ましてや恐喝だ。犯罪だ。実際どうだったのかは分からないが、臆病者でも優しい友人が縁を切ってきたのが何よりの証拠と言えるだろう。
仲の良かった友人とは縁が切れ、ほぼ毎日行われる嫌がらせ。ついに余裕が無くなった俺は、周りから遠ざけられるほど殺意に満ちたオーラを放つようになる。実際、小学校の時のように暴力を振るうことなど無いが、疑心暗鬼に取り憑かれていた俺の脳内はスプラッターなものだ。自他ともに血肉となることを想像し、あらゆる危機から脱する方法を模索する。頼れるのは己の能力のみ。周りは、全て敵だ。噛み付いてくるのならば、その全てを殺してしまえ、と。元々目付きが悪かったのに加えて、疑心暗鬼ゆえの自己防衛が殺意のオーラを作り上げたのだった。
そんなどうしようもなく殺気にまみれた俺を絆したのは、あの人だった。
あるとき、遼はこんなことを話していた。「平凡な人生だけど、それは幸福なこと。だから普通を保てる。でも、変化は止められない。」と。
この言葉は、俺が遼を好きだと自覚する前に、ストーリーが重厚なMMORPGをプレイしてる時に聞いた言葉だ。平凡な人生とはどういうものか、同性愛者の俺には遠いものに聞こえ、どうも実感が湧かなかった。所詮、人間は変われない生き物だとも思っていたために、言葉の意味を理解することが出来なかった。
今は、その言葉の意味が分かるかも、しれない。
* * *
「あら、りょーちゃん。なにをしているの?」
ぼくの後ろで、やさしい声がする。ふりかえると、そこにはおばあちゃんがいた。
「バラバラ。」
ぼくはバラバラになったおもちゃを見せた。おばあちゃんはそれを見て、うれしそうにわらう。
「まあ、りょーちゃんはとっても器用なのね。」
「きよう?」
「そう。器用っていうのはね、ものを使うのが上手な人のことを言うの。」
「ふーん。」
ぼくはきょうみがなかった。でも、ちょっとふしぎな気持ちになった。おばあちゃんは、おかあさんとちがってバラバラにしても怒らなかった。そのかわりに、ぼくのことをきようって言った。ふしぎ。
「おばあちゃん。」
「なぁに?」
「きようって、いいこと?」
「ん〜そうねぇ、良いことだし、悪いことでもあるのよ。」
「なんで?」
「あなたが大人になったら、きっと色々わかる時が来るわ。でもね、これだけは覚えて欲しいの。」
おばあちゃんはぼくをひざの上にのせて、やさしく頭をなでてくる。
「人はね、物じゃないの。だからね、こうやってバラバラにしたり、自分の都合の良いようにコントロールしちゃダメよ。」
「どうして?」
「りょーちゃんはバラバラにするなって言われたら、どう思う?」
「わかんない。どうしてバラバラにしちゃダメなの?」
「そうよね。りょーちゃんにとって、バラバラにすることが楽しいんだもの。止める意味は分からないよね。でも、それが嫌に感じる人もいるの。」
ぼくはたのしいのに、いやだと思うの?よくわからない。もらったものは、じぶんですきにつかっていいんだって言われたから、すきにしてるだけなのに。
「よくわかんない。」
「ふふっ、いずれ分かるわ。けど、大好きな人を嫌な気持ちにさせたくはないでしょう?」
「だいすきな人?」
「ええ。りょーちゃんが大事に思う人たちのことよ。もし、未来で大事にしたい!って思う人が出来たら、ちゃんと幸せにしてあげるのよ。人間は1人じゃ弱い生き物だからね。」
おばあちゃんはあったかくて、やさしくて、いつもわらってる。いまもぼくをひざにのせて、たぶんわらってる。ぼくにいろんなことを教えてくれる。でも、わからない。
「だいじ……」
だいじって、なんだろう。
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