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第9話 昔話 -後編-

 小学生時代の後半、僕はゲームを知ってから、ゲームに没頭していた。学業は参加する程度で、ゲームのように面白さは無いから真面目に取り組まなかった。ただ、図工は大好きだった。好きに色んなものを作れたし、人の作ったものを分解するのも楽しかったから。もちろん、分解するのに許可は得てる。「変なの」と言われることも多かったけど。  中学時代、友だちに彼女が出来た。友だちは毎日僕に惚気けてきて、日を重ねるごとに愚痴ばっかりになっていった。ふと僕は、「どうして付き合ったの?」と言ってしまった。それから、友だちは彼女と別れてしまった。数ヶ月経って、友だちは「どうして別れたんだろう」と言った。僕には、全く分からない。  高校に上がって、晴人から話しかけられた。当時、僕は中学からの友だちとクラスが別々になってしまったため、完全に孤立していた。そんな僕を気遣うように、晴人は僕の名前を聞いてきた。他にも、色んなことを聞いてきた。でも、どれも浅かった。他人の内は荒らさない人だと、晴人のことをそう印象づけた。それからしばらく経って、晴人の話を聞くだけのことがよくあった。色んな人の話も混じっていて、変に情報通になってしまった。でも、だからといって何かを誰かに言うことはしない。みんな、自分の中に好きなものを持っているから。色んな話を聞いて、ようやく僕はその事に気が付いた。  大学に上がってすぐ、晴人から連絡がきた。親睦会を開きたい、と。続けて、好きな人がいるんだ、と。高校では恋人のいなかった彼が、大学に上がって早々そう言ったのだ。よほど劇的な出会いでもしたのだろう。そう思いつつ、僕は「すれば?」としか返さなかった。そして彼は親睦会を開いた。  参加したはいいものの、僕自身はあまり親睦会の雰囲気が好きではなくて、適当な理由をつけて抜け出した。そこでふと気になるゲームの発売日であることに気が付き、ゲーム販売店へ入店した。ゲームを見つけて手に取ったそのとき、謙に出会った。  謙のことは、会うまでちゃんと認識していなかったが、面白い人だと思っている。ゲームで繋がった仲だったけど、自然と自分の好きな距離感と話題をすることが出来た。それに、彼はいつも平静を装っているけど、意外とビビりで軽く驚かすとビクッと肩が跳ねることを知った。僕のわかりづらいボケも、几帳面に拾って返してくれる。ぜんぜん質問攻めもしてこないし、ただただ面白くて良い人。友だちは何人かいるけど、この関係が不思議と長く続いてほいいと、初めて心の底から心地良いと感じた。そう感じ始めてから、必然と変化は訪れる。  謙と部屋でゲームして遊び終わったあと、僕は謙が家から出て帰ってく様子を二階の窓から見ていた。 「……え?」  そこで、僕はあるものを見た。謙をつけるように、遮蔽に身を隠しつつ一定間隔を保ち歩く晴人の姿を。  晴人は服装こそ普段とは違うパーカー服だが、髪色と体格からすぐ分かった。晴人の身長は謙とあまり変わらない。およそ180センチ以上だろう。でも、なぜ晴人が?  窓から見える限り、彼の動向を観察する。よく見ると彼はスマホを手にしており、そのレンズを謙に向けているようだった。察するに、晴人は謙を盗撮しているのだろう。  彼らが見えなくなってから、僕は少し考える。なぜ晴人は謙を盗撮していたのか、と。晴人の行動を見て胸騒ぎを覚えた僕は、その答えを知るために探ろうと決めたのだった。  嫌な予感は良く当たるもので、晴人の不審な行動に気が付いてから1か月後、謙の上着に盗聴器が付いていることを発見した。その前から、謙の家の前で張っているところを見かけている。謙の暮らしを考えると、晴人の行動によって謙は身の危険にさらされやすい。それは、僕も望まない。  不審行動を見てから1か月の間で、僕は晴人にこんな質問をした。親睦会を開いたあのとき、晴人が好きだと言っていた人は誰か、と。晴人は質問に困惑しつつ、誰にも言わないようにと言いながら「謙くん」と耳打ちで答えていた。  確信した。晴人は謙が好きだから、こんな犯罪じみた行動をしているのだと。最初は経過観察だったけど、盗聴器はもう許容できない。それに、謙は怯えていた。自分の興味本位で盗聴器の存在を知らせてしまったのは良くなかったかもしれないけど、意外と臆病者な彼を危険にさらしたくなかった。友だちを、失いたくなかった。  だからあのとき、晴人に大学で声をかけられる前から、言及しようと思っていた。  思えば、そう思っていた時点で、行動していた時点で、僕は彼のことを――”大事”だと思っていたのかもしれない。  * * *

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